相続の成人年齢引き下げによる影響とは? 相続・贈与時の注意点

2023年08月29日
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相続の成人年齢引き下げによる影響とは? 相続・贈与時の注意点

令和4年(2022年)4月1日から、民法上の成人年齢(成年年齢)が20歳から18歳に引き下げられました。

成人年齢の引き下げに伴い、相続や生前贈与についても影響が生じています。これから遺産相続が発生することが予測できる方は、改正後の現行ルールを前提としたうえで、適切に相続手続きや生前の相続対策を行う必要があります。

本コラムでは、民法上の成人年齢が引き下げられたことにより相続や生前贈与に生じた影響について、ベリーベスト法律事務所 八王子オフィスの弁護士が解説します。

1、成人年齢(成年年齢)の引き下げとは?

令和4年(2022年)4月1日に施行された改正民法により、民法上の成人年齢(成年年齢)は20歳から18歳に引き下げられました

なお、民法では18歳に達することを「成年」と表記していますが、本記事ではこれ以降「成人年齢」の表記に統一します。

  1. (1)成人年齢が20歳から18歳に引き下げられた理由

    民法上の成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたのは、主に以下の二つの理由によります。

    ① 若者の自己決定権を尊重し、積極的な社会参加を促すため
    これまで憲法改正に関する国民投票の投票権年齢や、公職選挙法の選挙権年齢が18歳に引き下げられるなど、若者の自己決定権を尊重し、積極的な社会参加を促す法改正が続々と行われました。
    この流れのなかで、18歳や19歳の若者にも行える活動の幅を広げるため、成人年齢についても20歳から18歳に引き下げられることになったのです。

    ② 成人年齢を18歳とするのが世界的な主流であるため
    OECD加盟国では、韓国が19歳、ニュージーランドが20歳としている以外は、すべての加盟国が成人年齢を18歳としています。
    日本の成人年齢が20歳から18歳に引き下げられた背景には、グローバリゼーションのなかで世界的なスタンダードに合わせようとする意図も存在します。
  2. (2)成人年齢の引き下げにより、18歳・19歳ができるようになったこと

    成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたことに伴い、18歳や19歳の方は、新たに以下のことができるようになりました。

    ① 法律行為
    親の同意がなくても、単独で契約などの法律行為ができるようになりました。
    後述するように、遺産分割協議への参加や相続放棄についても、18歳以上であれば単独で行うことができます。

    ② 居所の指定
    未成年者は親権者の定めた場所に住まなければなりませんが(民法第821条)、18歳になれば、住む場所を自分で決められるようになりました。

    ③ 職業
    未成年者は親権者の許可を得なければ職業を営むことができませんが(民法第823条)、18歳になれば、自分の判断で職業を営むことができるようになりました。

    ④ 財産の管理
    未成年者の財産は親権者が管理しますが(民法第824条)、18歳になれば、自分の財産を自分で管理できるようになりました。

    ⑤ 10年有効パスポートの取得
    18歳から10年有効パスポートを取得できるようになりました(従来は20歳から)。

    ⑥ 専門的な国家資格の取得
    公認会計士・行政書士・司法書士・社会保険労務士などの専門的な国家資格を、18歳から取得できるようになりました(従来は20歳から)。

    ⑦ 性別の取り扱いの変更審判の申し立て
    性同一性障害の方は、18歳になれば、家庭裁判所に対して性別の取り扱いの変更審判を申し立てられるようになりました(従来は20歳から)。

2、成人年齢の引き下げによる相続への影響

成人年齢の引き下げに伴い、相続手続きについても以下の影響が生じています。



  1. (1)18歳・19歳でも遺産分割協議へ参加できるようになった

    遺産分割は、相続人全員で行う法律行為です。
    したがって、未成年者が単独で遺産分割協議に参加することはできず、法定代理人の同意を得るか、または法定代理人が代わりに遺産分割協議へ参加しなければなりません。

    従来の民法において、18歳・19歳は未成年者とされていたため、遺産分割協議に参加することができませんでした。
    成人年齢の引き下げに伴い、18歳・19歳は成年とされたため、現在では単独で遺産分割協議に参加して、遺産分割協議書を締結できます

    なお、未成年者と親権者がともに相続人である場合には特別代理人の選任が必要ですが(民法第826条第1項)、親権から外れた18歳・19歳の方については、特別代理人の選任も不要となりました。

  2. (2)18歳・19歳でも単独で相続放棄ができるようになった

    「相続放棄」とは、「遺産を一切相続しない」という意思を表示することをいいます。
    家庭裁判所に対して、原則として相続の開始を知った時から3か月以内に申述書等を提出して行います(民法第915条第1項)。

    相続放棄をすると初めから相続人にならなかったものとみなされます(民法第939条)。
    被相続人に多額の借金があった場合や、遺産分割に関わりたくない場合などには、相続放棄をすることが有力な選択肢となるでしょう。

    相続放棄は法律行為であるため、未成年者は単独で行うことができません。
    したがって、従来の民法において、18歳・19歳は未成年者とされていたため、単独で相続放棄をすることができませんでした。
    しかし、成人年齢の引き下げに伴い、18歳・19歳は成年とされたため、現在では単独で相続放棄をすることができるようになったのです

  3. (3)未成年者控除の対象者・金額が変更された

    相続税には「未成年者控除」が設けられており、未成年者である相続人は、相続税の額から一定金額の控除を受けられます。

    成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたことに伴い、相続税の未成年者控除についても、以下のような変更が行われました

    ① 対象者
    従来は、相続または遺贈による財産の取得時に20歳未満であることが要件とされていましたが、財産取得時に18歳未満であることが必要になりました。

    ② 控除額
    未成年者控除の額が、以下のとおり変更されました。
    • 変更前:満20歳になるまでの年数1年につき10万円
    • 変更後:満18歳になるまでの年数1年につき10万円
    ※1年未満の期間は切り上げ

3、成人年齢の引き下げによる生前贈与への影響

相続税対策としてしばしば行われる生前贈与についても、成人年齢の引き下げに伴って、以下のような影響が生じています。



  1. (1)暦年課税|特別税率が適用される受贈者の年齢引き下げ

    「暦年課税」とは、1月1日から12月31日までに受けた贈与について、毎年贈与税を計算したうえで課税する方式です。相続時精算課税を選択していない場合は、暦年課税が行われます。

    暦年課税の場合、一定年齢以上の方が直系尊属(父母・祖父母など)から受けた生前贈与については「特例税率」が適用され、原則的な「一般税率」よりも相続税の負担が軽減されます。

    2022年3月以前に行われた生前贈与について、特例税率の適用を受けられるのは、贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の方です。
    これに対して、2022年4月以降に行われた生前贈与については、贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の方が特例税率の適用を受けられます

    <特例税率>
    基礎控除後の課税価格 税率 控除額
    200万円以下 10%
    400万円以下 15% 10万円
    600万円以下 20% 30万円
    1000万円以下 30% 90万円
    1500万円以下 40% 190万円
    3000万円以下 45% 265万円
    4500万円以下 50% 415万円
    4500万円超 55% 640万円

    <一般税率>
    基礎控除後の課税価格 税率 控除額
    200万円以下 10%
    300万円以下 15% 10万円
    400万円以下 20% 25万円
    600万円以下 30% 65万円
    1000万円以下 40% 125万円
    1500万円以下 45% 175万円
    3000万円以下 50% 250万円
    3000万円超 55% 400万円
  2. (2)相続時精算課税|対象年齢の引き下げ

    60歳以上の直系尊属(父母・祖父母など)から受ける生前贈与については、毎年贈与税を課す暦年課税に代えて、相続発生時にまとめて相続税を課す「相続時精算課税」を選択できます。

    令和4年3月以前に行われた生前贈与について、相続時精算課税を選択できるのは、贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の方です。
    これに対して、令和4年4月以降に行われた生前贈与については、贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の方が相続時精算課税を選択できます

4、成人年齢の引き下げと相続の関係については弁護士に相談を

成人年齢の引き下げに伴い、18歳・19歳の方が関わる相続手続きや相続税について、従来とは異なる注意点が生じています。
とくに18歳・19歳の方に対して、相続税対策の目的で生前贈与を行う場合には、従来よりも有利な税制を活用できる可能性があります

適切に相続手続きや相続税対策を行うためには、税理士と連携している弁護士に相談すれば、法律・税務の両面からさまざまなサポートを受けることができます。
ベリーベスト法律事務所でも、弁護士と税理士が連携して相続のサポートを行っております。
遺産相続が発生したら、まずはベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご相談ください。

5、まとめ

成人年齢の引き下げにより、18歳・19歳の方が関わる相続手続きや相続税について、一部のルールが変更されました。
現行ルールの下で適切に相続手続きや相続税対策を行うために、法律の専門家である弁護士のサポートを受けましょう。

とくに税理士と連携している弁護士に相談すれば、法律と税務の両面から相続に関するサポートを受けられます。
ベリーベスト法律事務所グループには、相続の経験が豊富な弁護士とともに税理士も在籍しております。
遺産相続が発生したら、まずはベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご連絡ください

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