承継人と相続人の違いとは? 遺産相続が始まったときの準備と注意点

2024年07月22日
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承継人と相続人の違いとは? 遺産相続が始まったときの準備と注意点

遺産相続は、多くの方にとって初めて経験される手続のため、見慣れない用語に直面する場面も少なくないでしょう。たとえば、「承継人」と「相続人」という用語は、同じ意味のように理解されていることもありますが、実は違いがあります。

八王子市役所のホームページでは、亡くなった方の市民税や都民税の納税義務について、「相続人に承継される」と説明しています。これは、亡くなった方の市民税や都民税は相続人が納付しなければならないという意味ですが、「相続」ではなく「承継」といわれていることには、理由があるのです。

今回のコラムでは、遺産相続における「承継人」と「相続人」という用語の違いや、相続手続をスムーズに進めるための基本的な知識について、ベリーベスト事務所 八王子オフィスの弁護士が解説します。

1、「承継人」と「相続人」の意味と両者の違い

「承継人」や「相続人」とは正確にはどのような意味なのか、また両者の違いについて解説します。

  1. (1)「承継」は広い意味で使われる

    法律用語としての「承継」は、他人から財産や権利、義務、法律上の地位などを引き継ぐことをいい、売買や相続、会社の合併、分割、事業譲渡など、多様な場面で用いられます。

    承継では、権利を引き継がれる人を「被承継人」、引き継ぐ人を「承継人」といいます。

    たとえば、人が亡くなると、亡くなった人から一定の親族へ財産の権利、義務が引き継がれますが、これは分かりやすい承継の例です。また、買い物のような身近な行為でも、代金を支払うことにより、商品の権利が売主から買主へ移転しますが、これも承継のひとつです。

  2. (2)「相続」は承継のひとつの形態

    「相続」とは、人の死亡により開始する手続で、亡くなった方の財産に属する権利、義務を承継するためのルールとして民法で定められた手続です。

    つまり、他人から財産や権利、義務などを引き継ぐ行為を総称する用語が「承継」で、人の死亡により遺産を承継する手続を「相続」といいます

    相続では、亡くなって財産などを引き継ぐ人を「被相続人」、それを引き取る人を「相続人」といいます。冒頭で紹介した市民税や都民税の納税義務の例は、租税に関する規定には相続について定義する規定がないことから「承継」という用語が使われていますが、実質的な意味は相続と同じと考えてよいでしょう。

  3. (3)相続と深く関わる事業承継や祭祀財産承継

    承継の中には、相続と深い関わりがあるものの、相続とは別のルールが適用される「事業承継」と「祭祀(さいし)財産承継」という手続があります。

    それぞれの手続について簡単に解説します。

    1. ① 事業承継
      事業承継とは、企業や事業の経営権や経営資源を次の世代などに引き継ぐことをいいます。事業承継は経営者が存命のうちに行われるのが一般的ですが、事業承継をする前に経営者が死亡した場合は、相続手続と並行して行うことになります。

      事業承継では、高額な資産や負債が承継されることが多く、相続人の一人が事業を引き継ぐ場合は、公平な相続をすることが難しくなる側面があります。

      そのため、事業承継は相続を見据えて、十分な時間をかけて計画的に進めるのが理想的です。

    2. ② 祭祀財産承継
      祭祀財産とは、祖先の祭祀に関する位牌や仏壇、神棚、墓地、墓石などの財産のことです
      これらの財産は、地域の慣習や家庭ごとに承継の考え方が異なるので、所有者が生前に指定した人や相続人同士の話し合いにより決められた人が祭祀主宰者として承継することになっています。

      祭祀財産は、相続財産には含まれず、相続税の課税対象にはならないため、生前に墓地や仏具などを購入することで、相続税対策になる可能性もあります。

      しかし、祭祀に必要な範囲を超えて高価なものは、税務署に否認されて追徴課税されることもあるので注意が必要です。

2、承継人の種類|一般承継人(包括承継人)と特定承継人

権利や財産などを承継する承継人には、承継の原因によって一般承継人(包括承継人)になるケースと特定承継人になるケースがあります。

遺言書の内容によって、一般承継人になるのか特定承継人になるのかの違いがあるので、それぞれの承継人について解説します。

  1. (1)一般承継人(包括承継人)

    一般承継人とは、他人に属する権利義務を“一括して承継する人”のことです。包括承継人と呼ばれることもあります。

    相続や会社の合併、分割による承継人は、一般承継人にあたります。ただし、権利や義務の性質上、故人の人格や能力、身分などと密接に関わりがあり、他人が承継するのが適当でないものは、相続の対象にはなりません。

    具体的には、次のようなものが挙げられます。

    • 代理権
    • 労働者としての地位
    • 生活保護費受給権
    • 婚姻費用請求権
    • 扶養請求権
    • 身元保証人としての義務


    ただし、存命中に発生して債権や債務として成立したもの(未払い賃金など)は、通常の金銭債権債務として相続の対象になります。

  2. (2)特定承継人

    特定承継人は、特定のものに関する権利や義務を承継する人のことです。売買や贈与などにより、特定の財産について権利を取得するケースが特定承継の典型的な例です。

    相続手続でも、遺言書により特定の財産を特定の相続人などに取得させる内容の遺言(特定財産承継遺言・特定遺贈)は、特定承継に該当します。
    遺言書の内容による違いは、次項で解説します。

  3. (3)遺言の内容による相続手続の違い

    遺言書がある場合、相続手続では故人の最終的な意思として尊重する必要があるので、遺言の内容に従って遺産を分けることになります。

    ただし、遺言の内容(書き方)によって、特定承継になるケースと一般承継になるケースがあり、その違いによって相続手続も異なります。

    ① 遺産分割方法が指定されている場合(特定承継)
    • 特定財産承継遺言……「土地Aを妻〇〇に相続させる」
    • 特定遺贈……「B銀行C支店の預金全部を孫△△に遺贈する」


    上記のように、特定の財産を特定の相続人などに相続させる、または遺贈する内容の場合は、遺産分割を行うことなく、相続開始と同時に当該遺産が承継されることになります。

    ② 相続分が指定されている場合(一般承継)
    「すべての財産を妻〇〇に相続させる」
    「妻〇〇の相続分は3分の2、長男□□の相続分は3分の1とする」


    このように、相続分のみが指定されている場合は、その指定内容に沿って具体的な遺産分割の方法を話し合いにより決める必要があります。

3、相続手続の流れ

相続の大まかな手続の流れや注意点を解説します。

  1. (1)遺言書の確認

    被相続人が遺言書を残していないか調査します。公正証書遺言として残っている場合には、全国の公証役場で調査をすれば遺言が残っているかどうかの確認ができます。自宅などで手書きの遺言書が発見された場合には、家庭裁判所で検認手続を受ける必要があります。封がされている場合には開封前に検認手続を経る必要があるのでご注意ください

  2. (2)法定相続人の調査

    法律の規定による相続人(法定相続人)を調査するために、戸籍証明書を収集します。最低限、被相続人の出生から死亡までの戸籍証明書が必要ですが、戸籍証明書は基本的に本籍地の市区町村役場に申請して取得する必要があります。

    なお、2024年3月1日以降は、本籍地にかかわらず最寄りの市区町村役場の窓口で戸籍証明書の交付が受けられることになっています(一部取得できないものもあります)。

  3. (3)相続財産等の調査

    被相続人の財産や借金などのすべてが相続の対象となるので、相続財産等の調査を行います後の遺産分割協議や相続税の申告を円滑に進めるために、財産等をリストにした目録を作成するとよいでしょう

    また、相続税は相続財産の総額が課税の基準になるので、不動産の固定資産税評価証明書、預貯金や有価証券の残高証明書なども取得しておきましょう。

  4. (4)単純承認・相続放棄・限定承認の選択

    相続人には、相続財産のすべてを承認する「単純承認」、相続財産の一切を放棄する「相続放棄」、相続財産のうち、債務の額を超える部分を承認する「限定承認」の3つの選択肢があります。
    相続放棄や限定承認をする場合は、相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人の死亡を知った日)から3か月以内に家庭裁判所において手続をとる必要があります。

    なお、特定財産承継遺言や包括遺贈による承継を受けたくない場合も、同様に相続の開始があったことを知った日から3か月以内に家庭裁判所における手続をとる必要があります

  5. (5)遺産分割協議

    相続人全員で話し合い、相続財産をどのように分けるかを決める「遺産分割協議」を行います。協議がまとまったら、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名・押印します。

  6. (6)相続税の申告・納付

    相続財産の総額が一定額を超える場合は、相続税の申告が必要です。相続税の申告と納付の期限は、相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人の死亡を知った日)の翌日から10か月以内とされています。

  7. (7)相続財産の名義変更

    遺産分割協議書が作成されたら、不動産の相続登記手続や預貯金の解約、払い戻しなど遺産の引継ぎを行います。

    なお、2024年4月1日から不動産の相続登記が義務化されます。遺言や遺産分割により不動産を取得した相続人は、3年以内に相続登記の申請をしなければ、10万円以下の過料の制裁(行政上のペナルティー)を受けることがあります。この制度は、2024年4月よりも前に発生した相続にも適用されるので、注意が必要です。

4、相続手続で押さえておきたい注意点

相続手続で特に注意したいポイントについて解説します。

  1. (1)相続手続の期限

    相続の手続の中には、法律で期限が定められているものがありますが、特に意識しておきたい期限は次の3つです。

    1. ① 相続放棄・限定承認の申述
      相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人の死亡を知った日)から3か月

    2. ② 準確定申告(亡くなった方の所得税申告)
      相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月

    3. ③ 相続税の申告
      相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月


    これらの期限を過ぎてしまうと、相続放棄ができなくなる、延滞税が加算されるなどの不利益を受けることがあるので注意が必要です

  2. (2)相続人間のトラブル

    相続では「手続に協力しない相続人がいる」「遺言書の内容が不明瞭」「生前に多額の贈与を受けた相続人がいた」など、予期しないトラブルが起きがちです。これらのトラブルが感情的な対立に発展すると、解決に時間を要することもあります。

  3. (3)遺留分

    遺留分とは、配偶者、子、直系尊属(親など)が法定相続人になる場合に、最低限保証される一定割合の留保分です。

    特に遺言により特定の相続人や第三者が多くの遺産を受け取る場合に、遺留分を侵害してトラブルになることがあります。また、相続で事業承継を行う場合、後継者に経営権を集中させることで遺留分が問題となることもあります。

  4. (4)トラブル回避には実績がある弁護士に相談

    相続手続は引き継いだ財産の調査から、相続人の特定、相続放棄するか・限定承認するかなど、期限がある中で、さまざまな問題や手続きをこなしていかなければなりません。

    こうした相続手続をスムーズに進めていくためには、相続問題の実績がある弁護士に早めにサポートを依頼することをおすすめします。弁護士は、相続トラブルの解決だけでなく、トラブルを未然に防ぐためのノウハウも有しています。

    スムーズに相続手続を進めたい場合は、まずは弁護士のサポートを受けることをおすすめします

5、まとめ

「承継人」と「相続人」は、いずれも他人の権利や義務の引き継ぐ人のことです。承継は、広義に他人の財産や権利、義務を引き継ぐ行為全般を指し、売買や相続、会社の合併など多様な場面で用いられます。相続は、人の死亡によって開始され、亡くなった方の財産に属する権利や義務を承継する民法に定められた手続です。

亡くなった方に課税される税金については、相続人が「承継」することになりますが、この場合は相続とほぼ同様のルールで納税義務が引き継がれることになります。また、事業承継や祭祀財産承継は、相続とは別のルールによる承継ですが、相続とも深く関わりがあるので、合わせて覚えておきましょう。

ベリーベスト法律事務所では、相続全般および事業承継についてのご相談を承っております。また、弁護士と税理士、司法書士がチームとなってお客さまをサポートするワンストップサービスもご好評をいただいております。

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  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています