遺留分を認めない遺言が見つかったら、遺留分の請求はできない?
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八王子市が公表している統計によると、令和5年の東京都八王子市での死亡者数は6605名でした。
亡くなった方は、自身の財産について遺言書で明記していることがあります。遺言書の内容はさまざまありますが、「○○には遺産を相続させません。遺留分も認めません」といった内容が記載されているケースもあるでしょう。
しかし、遺言によって相続人の遺留分を奪うことはできません。もし相続によって取得できた遺産等の額が少なすぎるときは、遺言書の記載内容にかかわらず、遺留分侵害額請求を検討しましょう。
本記事では、遺留分を認めない遺言の有効性や、遺留分侵害額の請求方法などをベリーベスト法律事務所 八王子オフィスの弁護士が解説します。
出典:「統計八王子(令和5年〔2023年〕版)」(八王子市)
1、遺留分を認めない遺言は有効なのか?
相続を受ける方(相続人)の一部には「遺留分」が認められています。もし遺言書に遺留分を認めない旨の記載があったとしても、遺言によって遺留分を奪うことはできません。遺留分の定義から詳しく解説します。
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(1)遺留分とは
「遺留分」とは、亡くなった方(被相続人)からの相続などによって取得できる、相続財産の最低保障額です。兄弟姉妹以外の相続人と、その代襲相続人に認められます(民法第1042条第1項)。代襲相続人とは、相続人になる予定だった方が、相続開始前に死亡するなどした場合に、代わりに相続人になった方を指します。
被相続人は生前贈与や遺言により、自由に財産を譲渡できるのが原則です。しかし、あまりにも偏った割合の配分が記載されていると、一部の相続人の期待が害されてしまいます。また、被相続人が同居している相続人に言われるがまま、その相続人に著しく偏った配分を遺言書に記載していることもあるでしょう。
このようなトラブルへの対策として、遺留分が存在します。
遺留分の割合は、直系尊属(被相続人の父母、祖父母など、被相続人より前の世代の直通する親族)のみが相続人である場合は法定相続分の3分の1、それ以外の場合は法定相続分の2分の1です。遺留分を下回る財産しか取得できなかった相続人は、財産を多く取得した方に対して「遺留分侵害額請求」を行い、不足額に相当する金銭の支払いを受けることができます(民法第1046条第1項)。 -
(2)遺言によって遺留分を奪うことはできない
遺留分は、相続人に保障された権利です。遺言書に遺留分を認めない記載があったとしても、それによって遺留分の権利が奪われることはありません。遺留分を認めない旨の記載は、あくまでも法的拘束力のない付言事項(遺言者のメッセージ)として扱われるにすぎません。
遺留分を侵害された場合には、遺言書の記載内容にかかわらず、遺留分侵害額請求を行いましょう。
2、遺留分を請求できないケース
遺言によって相続できる財産が大幅に減らされてしまったとしても、必ず遺留分を請求できるわけではありません。
以下のようなケースでは、遺留分を請求できないのでご注意ください。
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(1)当初から遺留分が認められていない場合
遺留分権利者とされているのは、兄弟姉妹以外の相続人と、その代襲相続人です(民法第1042条第1項)。
これに対して、兄弟姉妹や、兄弟姉妹の代襲相続人、つまりおい・めいは、相続人である場合でも遺留分が認められません。また、離婚した元配偶者・内縁のパートナー・おじ・おばなど、そもそも相続人でない人には遺留分が認められていません。
当初から遺留分が認められていない人は、当然ながら遺留分を請求することができません。 -
(2)生前贈与などを受けた結果、遺留分以上の財産を取得している場合
遺留分を算定する際の基礎となるのは、以下のいずれかに該当する財産です(民法第1043条、第1044条)。
- ① 被相続人が相続開始の時において有した財産
- ② 相続人以外の者が、相続開始前1年以内に受けた贈与
- ③ 相続人が、相続開始前10年以内に受けた贈与(婚姻もしくは養子縁組のため、または生計の資本として受けたものに限る)
- ④ 当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知りながら行われた贈与(相続人以外の場合は相続の1年以上前、相続人の場合は10年以上前にされたもの)
※相続債務の額は、上記の財産の額から控除します。
遺言書によって、遺留分を請求できる相続人の相続分が大幅に減らされたとしても、相続開始前10年以内、つまり被相続人の亡くなった日から10年以内に受けた贈与を考慮すると、実は遺留分侵害が発生していないというケースもあります。遺留分侵害が生じていなければ、遺留分を請求することはできません。
なお、生命保険の死亡保険金は、原則として遺留分を算定する際の基礎に含まれません。ただし、相続財産に比べて死亡保険金があまりにも多額であるなど、受取人と他の共同相続人の間に生ずる不公平が著しい場合は、生前贈与に準じて遺留分算定の基礎とされる可能性があります(最高裁平成16年10月29日判決参照)。 -
(3)遺留分を放棄した場合
遺留分を放棄した方は、遺言書によって相続分が大幅に減らされたとしても、遺留分を請求することはできません。
ただし、被相続人の生前に遺留分を放棄するためには、家庭裁判所の許可を受ける必要があります(民法第1049条第1項)。なお、被相続人や他の相続人が圧力をかけて遺留分を放棄させるような事態を防ぐため、遺留分放棄に関する家庭裁判所の審査は厳格に行われる傾向にあります。 -
(4)相続放棄をした場合
相続放棄をした方は、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法第939条)。
遺留分は相続人であることに伴って生じる権利なので、相続放棄によって相続人でなくなった場合には、遺留分を請求することはできません。 -
(5)相続欠格に該当する場合
以下の相続人の欠格事由に該当する者は、相続人となることができません(民法第891条)。
- ① 故意に被相続人・先順位相続人(その人よりも相続の優先順位が高い方のこと。)・同順位相続人を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために刑に処された者
- ② 被相続人が殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者(幼齢などの理由で、告発や控訴をすべきか判別できないとき、または殺害者が被相続人の配偶者もしくは直系血族であったときを除く)
- ③ 詐欺または強迫によって、遺言や遺言の撤回・取り消し・変更を妨げた者
- ④ 詐欺または強迫によって、遺言や遺言の撤回・取り消し・変更をさせた者
- ⑤ 被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した者
相続欠格に該当した者は、相続権とともに遺留分も失いますので、遺留分を請求することはできません。
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(6)相続廃除の審判を受けた場合
遺留分を有する推定相続人(相続が開始される前の段階で、相続人になることが予想される方)が以下の行為をしたときは、被相続人は家庭裁判所に対して、その推定相続人の相続権の取り上げ(廃除)を請求することが可能です(民法第892条)。また、遺言によって相続権を廃除する旨の意思表示も認められています(民法第893条)。
- ① 被相続人に対する虐待
- ② 被相続人に対する重大な侮辱
- ③ その他の著しい非行
家庭裁判所によって廃除の審判を受けた相続人は、相続権と遺留分をともに失いますので、遺留分を請求することはできません。
お問い合わせください。
3、遺留分侵害額の請求方法
遺言書の遺産分割に関する内容が偏っていたことなどを理由に、遺留分侵害額を請求する際の手続きの流れは、以下のとおりです。
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(1)遺留分侵害額を計算する
まずは遺留分侵害額を計算しましょう。
遺留分額は、基礎財産の総額に遺留分割合を掛けて計算します。遺留分割合は、父母、祖父母などの直系尊属のみが相続人である場合は法定相続分の3分の1、それ以外の場合は法定相続分の2分の1です。
遺留分侵害額を計算するときは、相続人や基礎財産の確認などがあり、複雑になるケースもあります。正しく計算をするために弁護士に相談することをおすすめします。 -
(2)相手方に対して請求書を送付し、協議する
遺留分侵害額請求を行う際、相手がひとりではなく、複数人いることもあります。その場合、誰に対して請求を行うかどうかは、民法で定められています(民法第1047条)。以下の3つの条件で、請求を行う相手が誰か、確認をしましょう。
- ① 受遺者(遺言による贈与を受けた者)と受贈者(生前贈与を受けた者)が両方いる場合、受遺者へ先に遺留分侵害額の金銭支払いを求めます。
- ② 受遺者が複数いる場合、または同時に行われた贈与による受贈者が複数いる場合には、価額の割合に応じて遺留分侵害額の金銭支払いを求めます(遺言で割合負担の記載がある場合は、その記載に従う)。
- ③ 受贈者が複数いる場合(②を除く)、より後に贈与を受けた者に対して、遺留分侵害額の金銭支払いを求めます。
※遺留分侵害額の負担は、自己の遺留分を超える金額が限度となります。
※負担者が無資力(財産よりも借金などの債務が超えている状態)の場合、回収できなかった金額を他の人に対して請求することはできません。
相手方に対して、内容証明郵便などによって請求書を送付し、遺留分侵害額の精算に関する協議を行いましょう。協議がまとまれば、合意内容をまとめた書面を締結して、その内容に従って遺留分侵害額の支払いを受けます。
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(3)遺留分侵害額の請求調停を申し立てる
相手方との協議がまとまらないときは、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てましょう。
調停では、中立である調停委員の仲介により、遺留分侵害額の精算についての合意形成を図ります。合意ができたら、その内容をまとめた調停調書が作成され、遺留分侵害額の支払いを受けることができます。 -
(4)遺留分侵害額請求訴訟を提起する
調停がまとまらないときは、裁判所に訴訟を提起しましょう。
遺留分侵害額請求訴訟では、証拠に基づいて遺留分侵害の事実を立証することが求められます。特に、遺留分の基礎財産に関する客観的な資料を裁判所に提出することが重要です。
裁判所によって遺留分侵害額の支払いを命ずる判決が言い渡され、その判決が確定すれば、遺留分侵害額の支払いについて、強制執行の申し立てが可能となります。また、訴訟を通じて、相手方との間で和解が成立するケースもあります。
4、相続トラブルについて弁護士に相談するメリット
遺留分問題を含む相続トラブルを解決するためには、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
弁護士に相談すれば、遺留分侵害額請求が認められるかなどについて、法的な観点からアドバイスを受けられます。また、他の相続人との交渉や調停・審判・訴訟の裁判手続きについても、対応を全面的に任せることができます。
相続トラブルにお悩みの方は、お早めに弁護士へご相談ください。
5、まとめ
遺言書に「遺留分は認めない」などと記載されていても、相続人の遺留分を奪うことはできません。遺言書の記載内容にかかわらず、遺留分侵害額請求を検討しましょう。
ただし、遺留分はすべてのケースで請求できるわけではありません。また、計算方法や請求方法に関して数多くの注意点があります。そのため、遺留分侵害額請求を行う際には、弁護士のサポートを受けるのが安心です。
ベリーベスト法律事務所は、遺産相続に関するご相談を随時受け付けております。遺言書の内容が偏っており、遺留分侵害額請求をご検討中の方は、ベリーベスト法律事務所 八王子オフィスへご相談ください。
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