調停とはどんな制度か?|調停の種類や手続きの流れを解説

2023年08月29日
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調停とはどんな制度か?|調停の種類や手続きの流れを解説

令和4年10月、日本の調停制度は発足100周年を迎えました。

調停とは、話し合いによりトラブルの解決を目指す裁判所の手続です。調停制度が発足した翌年に発生した関東大震災では、被災した借地や借家をめぐるトラブルの解決に調停が活用されています。

現在では、貸金や給料未払いなど民事のトラブルを扱う「民事調停」や離婚や相続など親族間のトラブルを扱う「家事調停」などが存在しており、令和3年の一年間で民事調停は約3万2000件、家事調停は約13万3000件が受理されました。

トラブルを解決するための法的な手続きには、調停のほかにも「裁判」など様々な種類が存在します。今回の本コラムでは、調停という手続きの概要や裁判ではなく調停を利用すべきケース、調停の種類や手続きの流れなどについて、ベリーベスト法律事務所 八王子オフィスの弁護士が詳しく解説します。

1、調停とはなにか

まず、「調停」という制度の概要や、裁判ではなく調停を利用すべき場合について解説します。

  1. (1)調停の特徴

    調停には、下記のような特徴が存在します。

    ① 話し合いによる柔軟な解決が期待できる
    調停とは、裁判官と民間人から選ばれた調停委員で構成される調停委員会が間に入り、話し合いによりトラブルの解決を図る手続きです。

    トラブルの実情に合った合意をすることもできるため、柔軟な解決が期待できます。
    また、話し合いは調停委員を通じて行うので、交渉が苦手な方や相手方と顔を合わせたくない場合でも安心して利用できます。

    ② 訴訟に比べて手数料が安い
    民事調停や訴訟の手数料は、請求する金額や物の価額により決まりますが、調停の手数料は訴訟の半額以下とされています。
    たとえば100万円の貸金を請求する場合、訴訟の手数料は1万円ですが、調停の手数料は5000円となります。
    また、調停が不成立となった場合、2週間以内に訴訟を起こすと調停で納付した手数料を訴訟に流用することもできます。

    ③ 手続が難しくない
    調停を申し立てる際に提出する申立書は、裁判所の窓口に記入式の用紙が用意されているほか、裁判所のWEBサイトからダウンロードして作成することもできます。
    また、法律用語についても調停委員から説明を受けながら話を進めることができるので、かならずしも法律知識は必要とされません。

    ④ 非公開の手続なので秘密が守られる
    訴訟は基本的に公開の法廷で審理されますが、調停は非公開の調停室で行われるため、第三者に知られたくないことでも気がねなく話すことができます。
    また、調停委員は調停の席で知った事実については守秘義務があるので、原則として調停委員から話が漏れる心配もないのです。

    ⑤ 調停での合意は確定判決と同一の効力がある
    調停が成立すると調停調書が作成されますが、調停調書は確定した判決と同一の効力があり、合意の内容が履行されない場合は強制執行をすることもできます。

    ⑥ 必ずトラブルが解決するわけではない
    調停を申し立てても、調停委員会により合意が成立する見込みがないと判断されると、調停は打ち切られて終了します。

    令和3年のデータでは、全国の簡易裁判所で終了した民事調停のうち、調停が打ち切られたり申し立てが取り下げられたりした割合は約44%でした。
    調停はトラブルが早く解決できるといわれることもありますが、調停がうまくいかなかった場合は訴訟などにより解決を図る必要があることを考えると、「やってみなければわからない」といえるのも調停の大きな特徴といえます。

  2. (2)裁判よりも調停が向いているケース

    調停でトラブルを「安く・早く・簡単に」解決するためには、そのトラブルが調停で解決することに適しているかを見極める必要があります。

    一般的には、以下のような場合のトラブルなら調停が向いているといえるでしょう。

    • 事実関係に大きな争いがない場合
    • 分割払いや減額など一定の譲歩ができる場合
    • 近隣や親族間、お子さまの学校でのトラブルなど、相手方との今後の関係を悪化させたくないような場合


    また、お互いの言い分に多少の食い違いがあっても、その点は解明しないままトラブルの解決を優先させることができるのも調停の特徴です

    たとえば、パワハラや不倫などの慰謝料請求では、訴訟で事実関係に白黒をつけるよりも、調停で早期に金銭的解決を図るというようなこともしばしば行われています。

2、調停の種類

以下では、民事調停や家事調停にはどのような種類があるのかについて解説します。

  1. (1)民事調停の種類

    簡易裁判所や地方裁判所で扱われる民事調停のうち、一般の方にとって身近なトラブルを扱う調停としては以下のようなものがあります。

    ① 民事一般調停
    貸金や未払い給料など、一般的な民事トラブルに関する調停です。

    ② 宅地建物調停
    借地や借家に関するトラブルを扱う調停です。
    賃料の増減額を求める場合は、訴訟の前に調停を行う必要があります(調停前置)。
    宅地建物調停は、トラブルになっている不動産の所在地を管轄する簡易裁判所で調停を行います。

    ③ 商事調停
    企業間取引や事業者と個人の商取引など商事に関するトラブルに関する調停です。

    ④ 交通調停
    交通事故により生じた損害のうち、治療費や休業損害など人的損害金のトラブルを扱う調停です。
    交通調停は、被害者の住所を管轄する簡易裁判所に申し立てることもできます。

    このほかにも、公害調停や農事調停などが存在します。

  2. (2)特定調停

    特定調停は、借金の返済ができなくなるおそれがある方が債権者と返済金額や返済方法について話し合うための、債務整理に特化した調停です。

    特定調停では、適正な利率で利息計算をし直したうえで、将来発生する利息のカットが認められることが一般的です。

    それなりのメリットが存在する手続ですが、「調停で決められた分割返済ができなくなると、調停調書などに基づいて強制執行される」というデメリットも存在することから、近年ではほとんど利用されなくなりました。
    現在では、特定調停とほぼ同じメリットがあるうえにデメリットがほとんどない、「任意整理」が多く利用されています

  3. (3)家事調停の種類

    家庭裁判所が扱う家事調停は、次のようなものがあります。

    ① 別表第2調停
    家事事件手続法の別表第2に規定された調停なので「別表第2調停」といわれており、具体的には以下のようなトラブルを扱います。

    • 婚姻費用の分担
    • 子の親権者や監護者の指定など
    • 財産分与
    • 遺産分割


    これらの調停が不成立になると、裁判官が判断する審判が開始されます。
    最初から審判の申し立てをすることも可能ですが、裁判所の判断により先に調停が行われることもあります。

    ② 一般調停・特殊調停
    別表第2調停以外のトラブルで代表的なものは、いわゆる「離婚調停」です。
    裁判所の手続で離婚を成立させるためには、まず家庭裁判所に調停の申し立てをする必要があり(調停前置)、調停が不成立になった場合は離婚訴訟を提起することになります。

    このほかに、協議離婚の無効確認や親子関係の不存在確認、嫡出否認、認知など、一般的には訴訟が利用されるようなトラブルであっても、当事者双方が合意すれば調停を利用することができます。

  4. (4)民間ADRとの違いは?

    トラブルを解決する方法には、訴訟や調停などの法的な手続きのほかにも、民間事業者による紛争解決手続である「民間ADR」が存在します。

    民間ADRとは、裁判手続の代替手段として民間事業者の仲介による紛争解決の手続です。
    「民間事業者が行う調停」と表現することもできます。

    民間ADRを利用するメリットとしては、休日や夜間でも利用ができること、裁判所の調停よりも迅速に進められるなど利便性が高いこと、などが挙げられます。
    一方で、民間ADRで合意が成立しても調停のような強制力はないので、相手方が合意内容を履行しない場合には、改めて裁判手続をとる必要があります

    なお、法務大臣が認証したADR機関で離婚ADRを利用して離婚の合意ができなかった場合は、離婚調停を経ることなく離婚訴訟を提起することができます。

3、調停期日当日の流れ

調停を申し立てると調停期日に裁判所に出向いて調停に臨むことになります。
以下では。調停期日はどのような流れで進むのかについて、解説します。

  1. (1)民事調停の流れ

    調停期日は申立人と相手方に同じ日時が通知されますが、それぞれ別の待合室で待機し、交互に調停室で調停委員と面談します。

    最初の調停期日では、申立人と相手方が同席した上で調停手続の説明が行われることもあります。
    最初の期日では、申立書に記載した内容の確認や相手方の主張に対する反論など、事実関係に関する話題が主となりますが、2回目や3回目の期日になると解決の方向性に関する話題になっていきます。
    調停期日は1か月に1回のペースで開かれ、半数以上の事件が3回以内の調停期日で終了しています。

  2. (2)家事調停の特徴

    家事調停も民事調停と同様の流れで手続が進みますが、加えて、以下のような特徴が存在します。

    • 調停の席に調査官が同席することがある
    • 申立人と相手方が顔を合わせないような配慮がなされる


    また、離婚や親権者・監護者の指定など、未成年の子どもの福祉について裁判所が積極的に調査する必要がある事件では、調停委員のほかに調査官が調停に同席することもあります。
    さらに、当事者間の感情的対立が激しい場合や、危害を加えられる不安がある場合は、別のフロアの待合室を用意してもらえたり、裁判所に出頭する時間をずらすなどの対応をとってもらえたりすることもあるのです。

  3. (3)調停不成立になったら?

    調停が成立する見込みがないと調停委員会が判断すると、調停不成立として調停手続は終了します。
    家事調停のうち「別表第2調停」は自動的に審判に移行しますが、これ以外の家事調停や民事調停は訴訟を起こすなど、別の方法によりトラブルを解決しなければなりません

    なお、調停で話がまとまらない場合でも、調停委員会は調停の経過をふまえて「調停に代わる決定(審判)」をすることがあります。
    調停に代わる決定(審判)は、最終の調停案として示されるものであり、内容に不服があれば告知を受けてから2週間以内に異議の申し立てをすることができます。
    異議申し立てがなければ調停が成立した場合と同様の効力が生じますが、異議の申し立てがあると、決定(審判)は失効して調停が終了となります。

4、法律問題は弁護士に相談を

調停は法律知識がない方でも手軽に利用できる手続です。
しかし、「トラブルの解決」をゴールと考えるなら、事前の交渉で相手方の反応を探り、裁判外の和解や調停、訴訟などの選択肢からもっとも有効な手段を選択してトラブルを解決することが、理想だといえます。

「弁護士といえば法廷で活動するものだ」というイメージを持たれている方もおられるかもしれませんが、実際には、裁判になる前の交渉段階で弁護士がトラブルを解決することも多くあります。
弁護士にトラブルの解決を依頼することには、以下のようなメリットが存在します

  • 最も適した方法による解決方法を提案してもらえる
  • 不利な調停案に応じるリスクを避けられる
  • 調停がうまくいかなかった場合に訴訟も依頼することができる


また、調停や訴訟を弁護士に委任すれば、書類の作成や裁判所への出頭も弁護士に代理人として代行してもらえる、という点もメリットといえます。

トラブルに悩まされている方は、適切な手続きを選択したうえで速やかに解決するために、まずは弁護士に相談してみましょう

5、まとめ

調停とは調停委員を介して話し合いによりトラブルを解決する制度です。
調停のメリットは、訴訟に比べて手続が簡単で費用が安いうえに、調停が成立すると判決と同様の効力がある、という点です。
一方で、調停は必ず成立するわけではないことや、不利な調停案に合意してしまう可能性があることなどがデメリットといえます。
もしトラブルに見舞われたら、ご自身の判断で調停や訴訟などの手続きを選択する前に、法律や交渉の専門家である弁護士のサポートを受けることを検討してみましょう。

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