不当労働行為とは何か 弁護士が例を挙げて解説

2024年07月22日
  • 労働問題
  • 不当労働行為
不当労働行為とは何か 弁護士が例を挙げて解説

東京都労働委員会事務局が公表している統計によると、令和5年度の不当労働行為審査事件の取り扱い件数は445件、新規係属件数は79件でした。

労働組合法では、企業による不当労働行為が禁止されています。労働組合から団体交渉を申し入れられた場面では、企業と労働者側の利害が対立するため、不当労働行為に抵触するような行為をしてしまうリスクもありますので、十分に注意して対応しなければなりません。

今回は、不当労働行為とは何か、企業が不当労働行為をした場合のリスクなどについて、ベリーベスト法律事務所 八王子オフィスの弁護士が解説します。

1、不当労働行為とは何か

不当労働行為とは、どのようなものなのでしょうか。以下では、不当労働行為の概要と5つの類型を説明します。

  1. (1)不当労働行為とは?

    不当労働行為とは、憲法により労働者に保障された以下の労働三権を阻害する行為をいいます

    • 団結権……労働者が労働組合を結成する権利
    • 団体交渉権……労働者が使用者と団体交渉をする権利
    • 団体行動権……労働者が要求を実現するために団体で行動する権利


    労働組合法では、憲法で保障されている労働三権の実効性を確保するために、不当労働行為を禁止し、労働委員会による救済制度を定めています。

  2. (2)不当労働行為の5つの類型

    労働組合法では、以下の5つの類型の不当労働行為を禁止しています

    ① 団体交渉拒否
    団体交渉拒否とは、使用者(会社)が正当な理由ないにもかかわらず、労働者の代表との団体交渉を拒否することを指します。使用者には“誠実交渉義務”がありますので、実際に団体交渉に応じないだけでなく、誠実に交渉しないことも団体交渉拒否として不当労働行為に該当します。

    たとえば、以下のような行為があれば、団体交渉拒否にあたる可能性があります

    • 労働組合からの主張や要求を聞くだけで、具体的な回答をしない
    • 対面での話し合いに応じず、書面や電話などで対応する
    • 団体交渉で合意に達したにもかかわらず、書面化を拒否する



    ② 不利益取り扱い
    不利益取り扱いとは、以下のような理由で、労働者に対して、解雇、懲戒処分、配置転換、昇給・昇格差別、嫌がらせなどの不利益な取り扱いをすることをいいます。

    • 労働組合員であること
    • 労働組合に加入を検討したこと
    • 労働組合の結成を計画・検討したこと
    • 労働組合の正当な行為をしたこと


    ただし、行き過ぎた労働組合活動をした組合員に対して、懲戒処分を行うのは、企業として正当な権利の行使といえます。この場合の懲戒処分は、不当労働行為に当たらない可能性があります。

    ③ 支配介入
    支配介入とは、使用者が労働者による労働組合の結成・運営を妨害したりする行為で支配したり介入することを指します。

    具体的には、以下のような行為が支配介入に該当します。

    • 労働組合の結成を妨害した
    • 労働組合の組合員に対し、脱退するよう働きかけた
    • 労働組合への加入状況の調査を行った
    • 労働組合に加入していると昇進が難しいなどの発言をした
    • 労働組合の活動を非難する発言をした



    ④ 経費援助
    経費援助とは、使用者が労働組合の運営に必要な費用を与えることをいいます。これにより、組合の自主性が損なわれてしまうリスクが高いことから、不当労働行為として禁止されています。

    ただし、以下のような行為については経費援助に含まれないとされています。

    • 労働時間中に賃金を失うことなく使用者と協議すること
    • 労働組合の厚生資金、福利基金に対する使用者の寄付
    • 最小限の広さの事務所の供与



    ⑤ 黄犬契約
    黄犬(おうけん)契約とは、労働者が労働組合に加入しないこと、または労働組合を辞めることを雇用条件とする契約をいいます。

    具体的には、以下のようなものが黄犬契約にあたります。

    • 採用時に労働組合に加入しないという内容の誓約書を書かせる
    • 採用面接時に加入済みの労働組合から脱退することを求める

2、不当労働行為が争われた裁判例を解説

以下では、不当労働行為が争われた裁判例をいくつか紹介します。

  1. (1)不利益取り扱いの事案|東京高裁平成30年6月28日判決

    【事案の概要】
    この事案は、組合員である大学教授らに行った大学側の以下の行為が、不当労働行為に該当するかどうかが争われた事案です。

    1. ① 教授らが行ったビラ配りが信用失墜行為であると発言し、ウェブサイトに掲載したこと
    2. ② 教授Aを研究科長に任命しなかったこと
    3. ③ 教授Bを評議員に指名しなかったこと
    4. ④ 教授Bが主任を務める国際講座について、学長自ら教員人事ヒアリングを行わず、他の理事に行わせたこと


    【裁判所の判断】

    • ①については、大学側の発言および掲載により労働組合の活動や運営が妨害され、萎縮・弱体化するなどのおそれが生じるものであることから不当労働行為に該当する。
    • ②および③については、教授の個人的な要因ではなく、組合活動を起因として行われたことが明らかであるから不当労働行為に該当する。
    • ④については、ヒアリング拒否により教授Bは講座主任としての職務遂行が妨げられるという不利益が生じていることから不当労働行為に該当する。
  2. (2)団体交渉拒否の事案|東京高裁令和2年6月4日判決

    【事案の概要】
    この事案は、労働組合による定年退職後再雇用者の労働条件や賃上げなどを議題とする団体交渉の場に、代表取締役を出席させず、必要な資料を提示しての説明をしなかったことが不当労働行為に該当するかどうかが争われた事案です。

    【裁判所の判断】

    • 不当労働行為である団体交渉拒否には、正当な理由なく団体交渉を拒否することだけでなく、不誠実な態度で交渉に応じることも含まれる。
    • 団体交渉における使用者側の出席者は、必ずしも代表者である必要はなく、実質的な交渉権限を有する者が出席していれば足りる。しかし、本件では、団体交渉に出席した所長や弁護士には、実質的な交渉権限があったとはいえないため、団体交渉拒否の不当労働行為に該当する。
    • 会社側が交渉事項について必要な経営に関する資料を提出しなかったことは、誠実に団体交渉に応じていたとはいえず、不当労働行為に該当する。

3、不当労働行為をしてしまった場合に起こりうるリスクとは

企業側が不当労働行為をしてしまった場合には、労働者または労働組合から不当労働行為の救済を申し立てられるリスクがあります。以下では、不当労働行為救済制度について説明します。

  1. (1)不当労働行為救済制度とは

    不当労働行為救済制度とは、労働者または労働組合が使用者による不当労働行為を受けた場合に、労働委員会に対して、不当労働行為の救済を求めることができる制度です

    労働者または労働組合からの不当労働行為の救済申し立てがあると、労働委員会では、内容の審査を行い、不当労働行為の事実が明らかになれば救済命令が出されます。

    使用者が労働委員会による救済命令に従わなかった場合には、以下のようなペナルティが科されます。

    • 取消訴訟を経ることなく確定した救済命令に違反した場合……50万円以下の過料
    • 取消訴訟により確定した救済命令に違反した場合……1年以下の禁錮または100万円以下の罰金
  2. (2)労働委員会による救済命令に対しては不服申し立てが可能

    都道府県労働委員会による救済命令に不服がある場合、中央労働委員会に対して、再審査の申立てをすることができます。

    また、都道府県労働委員会の命令または中央労働委員会の命令に不服がある場合、裁判所に取消訴訟を提起することもできます。

    そのため、労働者または労働組合から不当労働行為の救済申し立てがあると、長期間その対応に手間と労力を割かなければならないという負担が生じてしまいます。

4、企業が気を付けるべき労働三法とは

労働者を雇用する企業では、「労働三法」と呼ばれる、労働組合法、労働基準法、労働関係調整法に気を付けなければなりません。

  1. (1)労働組合法

    労働組合法とは、労働組合をつくり、団体交渉などにより会社との話し合いを行うことで、労働条件の改善などを求めることを保障した法律です

    団体交渉拒否、不利益取り扱い、経費援助、支配介入、黄犬契約といった不当労働行為は、労働組合法によって禁止されており、このような不当労働行為を受けたときには、労働委員会に対して救済を求めることができます。

  2. (2)労働基準法

    労働基準法とは、労働時間、賃金、休日などの労働条件の最低基準を定めた法律です
    契約自由の原則からすると当事者同士の合意があれば、どのような内容の労働契約でも定めることができそうです。しかし、使用者と労働者では、圧倒的に労働者の方が不利な立場にありますので、このような原則を貫くと、労働者が劣悪な環境で働かされるおそれがあります。そこで、労働基準法では、最低限の労働条件を定めることにより、労働者の保護を図っています。

  3. (3)労働関係調整法

    労働関係調整法とは、労働者と使用者との間で争いが生じ、当事者同士の話し合いでは解決が難しいような場合に、外部の組織が当事者の間に入って紛争を解決するための手続きを定めた法律です

    労働関係調整法では、労働委員会による斡旋、調停、仲裁の3つの方法により使用者と労働者との間に生じた労働争議の調整が行われます。

5、まとめ

企業と労働組合との間で対立が生じると、企業側が不当労働行為に該当するような行為をしてしまうケースも少なくありません。不当労働行為をしてしまうと、労働者から不当労働行為の救済申し立てをされるなどのリスクがありますので、どのような行為が不当労働行為として禁止されているのかを理解しておく必要があります。
そのため企業は、労働問題に詳しい弁護士による顧問弁護士サービスの利用が有効です。顧問弁護士がいれば、労働者とのトラブルが発生するまえに問題点を指摘してもらうことができますので、労働トラブルの防止に役に立つといえるでしょう。

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  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています