時短ハラスメントが起こった場合、企業はどう対処するべきか?

2024年08月15日
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時短ハラスメントが起こった場合、企業はどう対処するべきか?

令和5年度に東京都の労働相談情報センターへ寄せられた労働相談件数は4万2642件でした。

職場ではさまざまな形でハラスメントが問題になっていますが、特にここ数年で問題視されているのが「時短ハラスメント」です。時短ハラスメントとは、業務量や遂行方法は変わらないのに、残業を制限したり、定時退社を強要したりする行為です。

本記事では「時短ハラスメント」について、その弊害や原因、具体的事例、企業がすべき対処法などをベリーベスト法律事務所 八王子オフィスの弁護士が解説します。

1、時短ハラスメントとは?

「時短ハラスメント」とは、労働時間や業務量を削減するための具体的な方策を示さずに、会社が労働者に対して残業を制限したり、定時退社を強要したりする行為です。

働き方改革の浸透が進む中で、その副作用として起こり得る時短ハラスメントが注目を集めています。

  1. (1)時短ハラスメントの弊害

    時短ハラスメントには、短い労働時間の中では到底終わらない業務を課すことにより、労働者を疲弊させてしまう弊害があります

    たとえば、労働時間内に業務が終わらず隠れて持ち帰ったり、労働時間内に業務が終わるよう急いで業務を終わらせ、商品の品質が悪くなり社内外からクレームを受けて精神的ダメージを受けたりするなどの弊害があります。
    このように時短ハラスメントに対する弊害として、従業員への肉体的・精神的負担が非常に大きくなるという点があります。

    また、部下に定時退社を促した中間管理職が、部下の分まで仕事を引き取った結果、過大な業務を抱えて長時間にわたるサービス残業をするケースも散見されます。

    このような労働環境は、会社にとって離職率の上昇・優秀な人材の流出・新規採用の難航などを招き、結果的に会社は人材難となってしまう可能性が高いといえます。また、労働者の心身にダメージが蓄積されると、会社全体の生産性が落ちてしまいます。

    労働者に健康・健全な形で持続的に働いてもらうためには、時短ハラスメントの撲滅を目指すべきでしょう。

  2. (2)時短ハラスメントが起こる原因

    時短ハラスメントが起こる背景には、主に以下の原因があると考えられます。

    ① 経営陣が現場を把握していない
    各部署が抱えている業務を処理するために必要な人員と時間について、経営陣が現場を正確に把握していないと、人手不足にもかかわらず労働時間を短縮せよという無理難題を押し付ける結果となり、時短ハラスメントが発生するおそれがあります。

    ② 業務の効率化が図られていない
    労働時間の短縮は、業務の効率化とセットで行わなければ実現困難です。業務の効率化が図られないまま、労働時間の短縮だけを命じることは、時短ハラスメントの疑いがあります。

    ③ 人事考課の基準が不適切である
    時短ハラスメントは、管理職の指示によって発生することもあります。管理職による時短ハラスメントの背景には、不適切な人事考課制度が存在するケースが多いです。管理職の人事考課において、労働時間の短縮に過度な比重が置かれていると、管理職を時短ハラスメントに走らせる結果になりかねません。管理職の人事考課は、労働時間の短縮だけでなく、業務の効率化などの要素にもバランスよく比重を置くべきです。

2、時短ハラスメントが問題となった事例

時短ハラスメントが深刻化すると、悲劇に発展してしまうリスクもあります。

ある自動車販売店では、部下の残業を減らすよう会社から強要された店長が、部下の代わりに連日長時間の残業を行っていました。店長は過酷な長時間労働によってうつ病を患い、最終的には自殺してしまいました。

労働基準監督署は、店長の自殺を労災であると認定しました。さらに、店長の遺族は会社に対して民事訴訟を提起し、損害賠償を請求する事態に発展しました。

このように時短ハラスメントは、従業員の労働時間を無理やり減らすことにより、そのしわ寄せを受けた中間管理職に多くの負担を強いる結果となる場合があります。中間管理職を含めて、社内全体の労働環境を適正化するため、時短ハラスメントの発生防止に取り組むべきです。

3、従業員がハラスメントを訴えた場合の対処法

会社が従業員からハラスメント被害を訴えられた場合は、以下の対応を行いましょう。



  1. (1)事実関係を調査する|関係者へのヒアリング・メールの確認など

    まずは被害の訴えがあったハラスメントについて、事実関係を正確に把握する必要があります。

    被害者および加害者とされた労働者や、その周囲の労働者などに対してヒアリングを行い、どのような経緯があったのかを聴き取りましょう。また、被害者と加害者の間でやり取りされたメールなどを調べて、ハラスメントに当たるやり取りがあったかどうかを確認することも有用です。

  2. (2)被害者に対する保護・配慮を行う

    ハラスメントの被害者に対しては、労働環境や精神面について配慮を行うべきです。
    適切な配慮を行えば、被害者の離職や休職を防げる可能性があります。また、会社が積極的にサポートする姿勢を見せれば、後に被害者との間でトラブルになるリスクも抑えられます。

    少なくとも、加害者の席から被害者の席を離して、不意の接触が極力発生しないように配慮すべきでしょう。また、配置転換(部署移動)によって加害者と被害者を別の部署とすることも考えられます。

    さらに、被害者に対してはハラスメント相談窓口を案内して、窓口担当者に被害者のケアを行わせましょう。

  3. (3)加害者の懲戒処分などを検討する

    ハラスメントの事実が確認できた場合は、加害者に対する懲戒処分を検討しましょう。適切な懲戒処分を行うことは、社内に向けてハラスメント防止の強いメッセージを発信することにも繋がります。

    懲戒処分の内容は、ハラスメントの性質・態様に見合ったものとしなければなりません。加害者の行為の性質・態様そのほかの事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は無効となります(労働契約法第15条)。

    特に懲戒解雇については、解雇権濫用の法理(同法第16条)によって厳しく制限されており、安易な懲戒解雇は無効になる可能性が高いです。ハラスメントを理由に労働者を懲戒解雇しようとする際には、事前に弁護士へご相談ください。

  4. (4)ハラスメントの再発防止策を講じる

    社内におけるハラスメントを把握した場合は、再発を防止するための措置を講じるべきです。

    具体的には、以下の再発防止策が考えられます

    • ハラスメント防止の方針を社内に再度周知する
    • 従業員向けのハラスメント研修を行う
    • ハラスメント対応マニュアルを見直す
    • ハラスメント相談窓口を充実させる
    など


    会社の人的・資本的リソースや風土などを考慮して、適切な形で再発防止策を講じましょう。

4、ハラスメントの対策・予防について弁護士ができること

社内におけるハラスメントの対策・予防策については、弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士はハラスメントに関して、主に以下の対応を行っています



  1. (1)ハラスメント対応マニュアルの整備

    ハラスメント対応マニュアルをきちんと整備しておけば、社内におけるハラスメントを早期に把握し、深刻化させないために適切な対応をとりやすくなります。

    また、実際にハラスメントが発生した際の被害者対応についても、マニュアルを充実させておけば、担当者の戸惑う部分が少なくなるでしょう。

    弁護士は労働実務およびクライアント企業の風土などを総合的に考慮しつつ、ハラスメント対応マニュアルの整備をサポートいたします。

  2. (2)実際のハラスメント対応に関するアドバイス

    実際のハラスメント対応についても、弁護士が全面的にサポートいたします。

    特に加害者に対する懲戒処分は、懲戒権や解雇権の濫用に当たらないように、その内容を慎重に決定しなければなりません。弁護士は、懲戒処分や懲戒解雇に関する過去の裁判例などを踏まえた上で、どのような内容の懲戒処分を行い得るかについてアドバイスいたします。

  3. (3)従業員向けのハラスメント研修

    社内にハラスメント予防の意識を浸透させるには、弁護士によるハラスメント研修の実施が効果的です。

    弁護士は、ハラスメントに関する法律のルールや実務上の注意点につき、わかりやすい事例を用いて研修を行います。弁護士によるハラスメント研修を定期的に実施することで、最新の世情を踏まえたハラスメント予防意識を労働者にインプットできます。

5、まとめ

時短ハラスメントは会社の生産性を低下させるとともに、優秀な労働者の離職を招きかねません。労働時間を短縮するに当たっては、業務の効率化などをセットで推進し、時短ハラスメントの発生を防ぎましょう。

時短ハラスメントを含めて、ハラスメントへの対策・予防策を講じる際には、弁護士への相談がおすすめです。

ベリーベスト法律事務所は、ハラスメントに関する企業のご相談を随時受け付けております。そのほか、残業代・労働組合対応・社内規程の整備など、人事・労務管理について幅広くご相談いただけます。

ハラスメント対策を強化したい企業は、まずはベリーベスト法律事務所 八王子オフィスにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています