タイムカードがない会社はやばい? 残業代の証拠や請求方法を解説
- 残業代請求
- タイムカードない
- やばい

長時間労働が疑われるとして令和5年度に東京都内の労働基準監督署が監督指導を行った3438事業場のうち、違法な時間外労働があったものは1385事業場でした。
不適切な労働時間管理は、労働基準法違反のひとつであり、特に長時間労働が疑われる事業場で発生しやすい問題です。職場において、タイムカードの設置は必須ではありませんが、労働時間が適切に管理されていなければ違法となります。職場にタイムカードが設置されておらず、労務管理もずさんで未払い残業代が発生している場合には、速やかに弁護士へご相談ください。
本記事では、タイムカードがない会社はやばいのかどうか、およびタイムカードがない場合の未払い残業代の請求方法などを、ベリーベスト法律事務所 八王子オフィスの弁護士が解説します。
出典:「長時間労働が疑われる事業場に対する令和5年度の監督指導結果を公表します」(東京労働局)


1、タイムカードがない会社はやばい?
タイムカードは、労働時間を客観的に把握する方法としてとても一般的なツールです。
労働安全衛生法第66条の8の3では、事業者に労働者(従業員)の労働時間を把握することを義務付けています。
その方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とされています(労働安全衛生規則第52条の7の3第1項)。
上記のとおり、タイムカード以外の方法によって労働時間を把握することも認められているので、タイムカードの設置は必須ではありません。しかし、労働時間の把握は必須です。労働時間を把握していない会社は、労働安全衛生法違反に当たります。
特に問題となるのが、いわゆる「サービス残業」の存在です。タイムカードなどの客観的な記録がない場合、実際の労働時間と申告された労働時間に差が生じやすく、残業代が適切に支払われない違法な状態が常態化するリスクが高まります。これは労働基準法第37条に違反する重大な問題であり、場合によっては刑事罰の対象となる可能性もあります。
したがって、職場にタイムカードがなく、その他の方法による労働時間の管理も適切に行われていない場合は、何らかの違法状態が発生している可能性が極めて高いです。
未払い残業代の請求など、今後の対応について弁護士に相談しながら検討しましょう。
2、タイムカード以外に、未払い残業代請求の証拠となるもの
タイムカードが設置されていなくても、労働者は以下のような証拠を用いて、会社に対して未払い残業代を請求できる可能性があります。
具体的にひとつずつ解説していきます。
-
(1)勤怠管理システムの記録
多くの企業では、PCやスマートフォンを使用した勤怠管理システムを導入しています。これらのシステムの打刻記録は、労働時間を証明する重要な証拠となります。特に、システムに残る打刻時間と実際の労働時間に差がある場合は、その差異を記録しておくことが重要です。
-
(2)業務日報や作業報告書
日々の業務内容や作業時間を日常的に記録している業務日報は、実際の労働時間を示す有力な証拠となります。手書きの場合でも、適切に記録されていれば証拠としての価値を持ちます。特に、上司の承認印やコメントが付されている場合は、証拠としての価値が高くなります。以下のような書類が該当します。
- 業務の進捗(しんちょく)報告書
- 営業日報
- 顧客対応記録
-
(3)オフィスの入退館記録
セキュリティーカードやICカードによる入退館記録は、オフィスでの滞在時間を客観的に示す証拠となります。
-
(4)会社システムへのアクセス記録
業務用PCやネットワークの使用記録内容によっては、労働時間を証明する有力な証拠となりえます。
- 社内ネットワークへのログイン・ログアウト記録
- 社内外との業務メールのやり取り
- 社内チャットツールの使用記録
- 各種業務システムの操作履歴
-
(5)その他の証拠となり得るもの
その他にも以下のようなものが証拠になる可能性があります。
- オンライン会議の参加記録
- 社用携帯電話の通話履歴
- 取引先との商談記録や議事録
未払い残業代の請求は、適切な客観的証拠があれば十分に可能です。ただし、どの証拠が有効か、どのように収集すべきかについては、弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。弁護士に相談しながら、諦めることなく残業の証拠を確保していきましょう。
お問い合わせください。
3、未払い残業代の請求方法
実際に会社に対して未払いの残業代を請求することになった場合、どのような段取りが必要なのでしょうか。
ここでは、未払い残業代を請求する際の、準備や対応の流れを解説します。
-
(1)残業の証拠を確保する
まずは、残業の証拠を確保することが大切です。前述した通り、タイムカードがなくとも、勤怠管理システムの記録などの客観的な証拠があれば、未払い残業代請求の成功率が高まります。
客観的な証拠がないとしても、上司の承認印がある業務日報などが証拠になるかもしれません。集めるべき証拠の種類や収集方法については、弁護士のアドバイスを受けましょう。 -
(2)未払い残業代の額を計算する
残業の証拠を確保したら、会社に対して請求する未払い残業代の額を計算しましょう。
残業代の額は、以下の式によって計算します。集計した残業時間を種類ごとに振り分けて、適正な残業代がいくらであるかを計算しましょう。
残業代の計算は、以下の3つのステップで行います。
STEP1:1時間当たりの基礎賃金を計算 1時間当たりの基礎賃金=1か月の総賃金(以下の手当を除く)÷月平均所定労働時間 月平均所定労働時間=(365日-1年間の所定休日日数)×1日の所定労働時間÷12か月【総賃金から除外される手当】- 残業手当(時間外労働手当、休日労働手当、深夜労働手当)
- 家族手当(扶養人数に応じて支払うものに限る)
- 通勤手当(通勤距離等に応じて支払うものに限る)
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当(住宅に要する費用に応じて支払うものに限る)
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
STEP2:割増率を確認
残業代の割増率は以下の表の通りです。
残業の種類 残業の概要 割増率 法定内残業 所定労働時間を超え、法定労働時間を超えない残業 割増なし 時間外労働 法定労働時間を超える残業 通常の賃金に対して125%
※月60時間を超える部分については、通常の賃金に対して150%休日労働 法定休日における労働 通常の賃金に対して135% 深夜労働 午後10時から午前5時までに行われる労働 通常の賃金に対して125%
STEP3:残業代を計算
残業代=1時間当たりの基礎賃金×割増率×残業時間数
上記の式によって計算した残業代の額から、すでに支払われた残業代の額を引けば、未払い残業代の額が分かります。 -
(3)内容証明郵便を送付する
未払い残業代の額を計算したら、通常、会社に対して内容証明郵便で請求書を送付します。内容証明郵便には、主に以下の事項を記載します。
- 請求する未払い残業代の額
- 未払い残業代の支払期限
- 支払わなければ、法的措置を講ずる旨
内容証明郵便を送付すれば、会社に対して正式な請求である旨を伝えることができます。また正式な請求行為には、残業代請求権の消滅時効の完成を6か月間猶予させる効果もあります(民法第150条第1項)。
残業代請求権の時効期間は、本来の支払日から3年間です(労働基準法第115条、附則第143条第3項)。なお、令和2年4月1日の法改正により、段階的に5年に延長されることが決まっています。
時効期間が経過する前に、弁護士のサポートを受けながら内容証明郵便を送付しましょう。 -
(4)会社と交渉する
会社から内容証明郵便に対する返信を受けたら、未払い残業代の支払いに関する交渉を開始します。
会社との交渉では、残業の客観的な証拠を示しつつ、法的根拠に基づいて未払い残業代を請求しましょう。そうすれば、会社側も分が悪いことを悟って、未払い残業代の請求に応じる可能性があります。
未払い残業代に関する会社との交渉は、弁護士に依頼すれば代行してもらえます。自分で会社と交渉するのが大変な場合や、未払い残業代請求の成功率を高めたい場合には、弁護士に依頼しましょう。 -
(5)労働基準監督署へ申告する
会社が未払い残業代を支払わない場合は、労働基準監督署への申告を検討しましょう。
労働基準監督署は、労働基準法や労働安全衛生法に違反する事業者行為につき、労働者からの申告を受け付けています。事業者は、労働基準監督署に申告したことを理由に、労働者に対して解雇やその他不利益な取り扱いをしてはなりません(労働基準法第104条、労働安全衛生法第97条)。
タイムカードがなく、労働時間の把握が適切に行われていない場合は、そのこと自体が労働安全衛生法違反に当たります。
また、労働時間の把握がずさんであるために、残業代が適切に支払われていない場合は、労働基準法違反にも該当します。
これらの事由を、労働基準監督署に対して申告しましょう。
労働者からの申告を受け付けた労働基準監督署は、事業場に対して立ち入り調査を行うことがあります。
立ち入り調査の結果、労働基準法や労働安全衛生法に違反する事実が発見された場合は、事業場に対する是正勧告が行われます。
是正勧告がなされれば、違反状態を是正するため、会社が任意に未払い残業代を支払う可能性が高いでしょう。 -
(6)労働審判や訴訟を検討する
会社との交渉が決裂した場合は、裁判手続きを通じて未払い残業代の回収を図りましょう。具体的には、労働審判の申し立てや訴訟の提起を検討することになります。
労働審判は、労使紛争を迅速に解決することを目的とした非公開の手続きです。裁判官1名と労働審判員2名が労使双方の主張を公平に聴き取った上で、紛争の解決を図ります。
労働審判の期日は原則として3回以内で終結するため、迅速な解決が期待できます。ただし、労働審判に対して異議が申し立てられた場合は、自動的に訴訟へ移行する点に注意が必要です。
訴訟を提起した際は、実際に残業をしていた証拠を裁判所に提出し、残業代の支払いを求める権利があることを証明します。裁判所がこの証拠や主張を認めた場合、会社に対して残業代の支払いを命じる判決を下します。この判決が最終的に確定すると、会社は残業代を支払わなければならず、これによって未払い残業代を巡る争いに決着がつきます。
訴訟では、証拠に基づく厳密な主張と立証が求められるため、弁護士へのご依頼をお勧めいたします。
4、未払い残業代請求を弁護士に相談するメリット
会社から適切に残業代が支払われていないと感じている方は、弁護士に相談しましょう。
未払い残業代請求について弁護士に相談することには、以下のようなメリットがあります。
- 未払い残業代の額を正確に計算できる
- 会社との交渉をサポート、または代行してもらえる
- 労働審判や訴訟などの法的手続きへの対応を一任できる
- 適正額の未払い残業代を回収できる可能性が高まる
- 労力やストレスが軽減される
会社に対して未払い残業代を請求したい方は、お早めに弁護士へご相談ください。
5、まとめ
会社においてタイムカードの設置は必須ではありませんが、労働時間を適切に把握していない場合は違法です。タイムカードの不設置や不正打刻などが原因で、未払い残業代が発生していると思われるときは、速やかに弁護士へ相談しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、未払い残業代請求に関する労働者のご相談を随時受け付けております。
会社に対して未払い残業代を請求したいものの、タイムカードがないなどの理由で証拠が確保できず困っている方は、ベリーベスト法律事務所 八王子オフィスへご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています