残業前提の業務量は違法? 労働者が主張できる権利と対処法

2025年11月20日
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残業前提の業務量は違法? 労働者が主張できる権利と対処法

職場によっては残業前提の業務量が常態化しているところもあると思います。

残業前提の業務量だったとしてもそれだけで直ちに違法になるわけではありませんが、適切な残業代が支払われていない、残業時間の上限規制を超えているような場合には違法な残業と評価される可能性があります。

今回は、残業前提の業務量が常態化することの違法性と残業前提の状況を改善するための対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 八王子オフィスの弁護士が解説します。


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1、残業前提の職場は大問題? 残業の定義

残業前提の業務量が常態化している職場は違法なのでしょうか。以下では、残業前提の職場になり得る前提条件や残業の基本について説明します。

  1. (1)残業前提の職場になり得る主な原因

    残業前提の職場になる原因にはさまざまなものがありますが、代表的な原因としては以下のようなものが挙げられます。

    ① 慢性的な人手不足
    残業前提の職場になり得る原因の1つ目は、慢性的な人手不足です
    十分な人材を確保できない状態が続くと、労働者1人あたりの業務量が増加しますので、定時では業務を処理できず、残業をしなければならない状況になります。
    このような職場では、離職率が高く人が定着しないため、人手不足が解消しづらく、残業前提の職場になる原因といえるでしょう。

    ② 非現実的な納期や業務量
    残業前提の職場になり得る原因の2つ目は、非現実的な納期や業務量です
    企業として売り上げを伸ばすことは重要ですが、明らかに通常の労働時間内で終わらない量の仕事を受注・計画していると、そのしわ寄せは労働者に来てしまいます。
    特に、クライアントへの依存度が高い業種では、クライアントのスケジュールや要望に振り回される結果、労働者の残業時間が増える傾向があります。

    ③ 残業が当たり前という企業文化
    残業前提の職場になり得る原因の3つ目は、残業が当たり前という企業文化です
    生産性よりも長時間働く姿勢が重視されるという企業では、残業前提の業務量が常態化しているため、残業時間が長くなる傾向があります。
    また、上司が残業をしていると帰りづらい雰囲気があるということも残業が前提となる原因といえるでしょう。
  2. (2)残業前提の業務量でも直ちに違法ではない

    残業前提の業務量が常態化していたとしても、そのことだけで直ちに違法になるわけではありません。

    • 残業を命じるための法律上の手続きを踏んでいる
    • 残業時間が上限規制の範囲内である
    • 残業代が適切に支払われている

    などの条件を満たしていれば、残業前提の業務量でも適法といえるでしょう。

  3. (3)残業の基本的なルール

    いわゆる「残業」というと、会社の就業規則で定めた「所定労働時間」を超える時間の労働を指すと考える方が多いかもしれません。

    労働基準法では、1日8時間および1週40時間という「法定労働時間」を定めており、これを超えて働かせることを「時間外労働」といいます

    残業をした労働者に対しては、残業時間に応じた割増賃金が支払われますが、残業手当の算定基準を、「所定労働時間」を超える時間とするか、「法定労働時間」を超える時間とするかは、労使の定めによって決まります。

2、残業の扱い方が違法となりうるケース

残業を前提とする業務量であっても直ちに違法になるわけではありませんが、以下のようなケースでは残業が違法と評価される可能性があります。

  1. (1)残業代が支払われていない

    残業をした労働者に対しては、残業時間に応じた残業代(割増賃金)を支払わなければなりません。
    適切な残業代が支払われていない場合には、違法な残業となります

  2. (2)36協定がない

    法定労働時間を超えて働かせるためには、労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する人との間で36協定を締結しなければなりません。

    36協定を締結することなく残業を命じることはたとえ適切な残業代が支払われていたとしても違法となります

  3. (3)残業時間の上限規制を超えている

    36協定を締結し、それを労働基準監督署に提出することで会社は適法に残業を命じることができるようになりますが、残業時間には月45時間・年360時間という上限が設けられています

    ただし、臨時的な特別の事情があるときは特別条項付き36協定を締結することで、以下の範囲内での残業が可能になります。

    • 時間外労働が年720時間以内
    • 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
    • 時間外労働と休日労働の合計が2~6か月の各月平均のすべてが1か月あたり80時間以内
    • 時間外労働が月45時間を超えるのは年6か月まで

    このような残業時間の上限規制を超えて残業がなされている場合には違法となります。

  4. (4)管理職であることを理由にした残業代の未払い

    経営者と一体的な立場にある労働者のことを労働基準法では「管理監督者」といいます。管理監督者には、労働基準法の労働時間・休憩・休日の規定が適用されませんので、残業代の支払いは不要です

    しかし、「管理監督者=管理職」ではありませんので、管理職という肩書があることだけを理由として残業代の支払いをしないことは違法になる場合があります。

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3、残業前提の状況を改善するために行えることと主張できる権利

残業前提の職場環境を改善するためにはどうしたらよいのでしょうか。以下では、残業することに対して労働者が主張できる権利と、残業前提の状況を改善するための具体的な対策を説明します。

  1. (1)労働者が主張できる権利

    残業前提の状況を改善するために労働者が主張できる権利には、以下のようなものがあります。

    ① 残業の拒否
    労働者には、会社の業務命令に従う義務がありますので、正当な理由なく残業を拒否することは業務命令違反として懲戒処分の対象になることがあります。
    しかし、会社の残業命令が違法である場合には、それを拒否する正当な理由があるといえますので、残業命令を拒否することができます

    ② 残業代の請求
    残業前提の状況が常態化している職場では、残業時間の把握がおざなりになり、適切な残業代が支払われていないというケースも少なくありません。
    このようなケースでは会社に対して残業代を請求することができます。

    ③ 損害賠償請求
    長時間労働の結果、健康被害が生じたという場合に労働災害と認定される場合もあります。このような場合、会社に対して安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求ができる可能性があります。
  2. (2)残業前提の状況を改善するための対策方法

    残業前提の状況を改善するための対策方法としては、以下のとおりです。

    ① 現状把握と違法残業の証拠を集め、会社に改善を求める
    残業前提の状況は、残業が常態化し長時間に及ぶことが多いため、違法残業となっている可能性があります。その状況を改善するには、会社に対して現状が違法であることを認識してもらう必要があります。そのためには、違法な残業であることを裏付ける証拠を集めることが重要です
    十分な証拠が確保できたら、証拠を提示しながら会社に対して違法な残業であることを説明し、現状の改善を求めていくとよいでしょう。

    ② 労働組合や労働基準監督署への相談
    会社に対して改善要求をしても悪質な会社では適切に対処してくれないこともあります。
    そのような場合には、労働組合や労働基準監督署に相談することも検討してみましょう
    労働組合には団体交渉権がありますので、労働者が個人で交渉するよりも会社側にプレッシャーを与えやすいというメリットがあります。ただし、労働組合が形骸化している場合には労働組合に相談をしても十分な成果は期待できません。
    労働基準監督署は、違法な残業が確認されたときには指導や是正勧告を行うことができますので、それにより残業前提の違法な状況が改善される可能性があります

    ただし、労働基準監督署は、労働者の代理人として交渉してくれるわけではありませんので、残業代請求などは後述するように弁護士に相談した方がよいでしょう

4、残業問題で弁護士に相談すべきケース

残業問題で以下のようなケースに直面した方は、すぐに弁護士に相談した方がよいでしょう。

  1. (1)残業を拒否したら解雇されたケース

    会社による残業命令が違法であれば残業命令を拒否することができますが、悪質な会社では、残業を拒否したことを理由に解雇をすることがあります。

    このような解雇は、不当解雇にあたる可能性があります。解雇の違法性を主張することを考えた場合には、弁護士に相談した方がよいでしょう。弁護士を通じて会社との交渉や裁判の結果、不当解雇が認められれば職場への復帰が認められ、解雇日以降の未払い給料についても請求することができます。

  2. (2)残業代が適切に払われていないケース

    残業前提の状況が常態化している職場では、残業代が適切に支払われていないケースも少なくありません。未払い残業代がある場合には、会社に対して残業代請求が可能ですが、このようなケースも弁護士に相談することをおすすめします。

    弁護士であれば、証拠に基づき残業代を計算することが可能です。

    弁護士に依頼すれば、証拠収集や残業代計算だけではなく会社との交渉や労働審判・裁判にも対応できますので、負担を大幅に軽減することが可能です

5、まとめ

残業前提の状況が常態化している職場では、違法な残業が行われている可能性があります。残業前提の状況を改善したり、自分の権利を守るためにできることがありますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

残業前提の状況に疑問を感じている方は、ベリーベスト法律事務所 八王子オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています