相続開始日とは? 相続開始日から始まる相続全体の流れも弁護士が解説

2023年09月28日
  • 遺産を受け取る方
  • 相続開始日とは
相続開始日とは? 相続開始日から始まる相続全体の流れも弁護士が解説

令和3年度に三多摩地区の税務署で相続税の申告をした方の人数は約2万700人でした。

親族が亡くなって相続人になると、相続税の申告や納付以外にも行うべき手続がたくさんあります。とくに、相続手続を進めるに当たっては「相続開始日」を正しく把握しておくことが重要です。相続開始日は期限が定められた相続手続の始期となることが多く、うっかり期限を過ぎてしまうと思わぬ不利益を受けることもあるので注意しましょう。

今回のコラムでは、相続開始日はどのようにして決まるのか、期限のある相続手続はどのようなものがあるのかについて、ベリーベスト法律事務所 八王子オフィスの弁護士が解説します。

(出典:国税庁HP)

1、相続開始日とは

民法では、「相続は、死亡によって開始する。」(882条)とされています。つまり、基本的には、相続開始日とは被相続人(財産を残す方)が亡くなった日ということになります。
しかし、死亡日がはっきり分からない場合や死亡が確認されない場合にも、相続が開始することがあるのです。

以下では、「相続開始日」の考え方について解説します。

  1. (1)死亡した場合

    人の死亡が確認されると、医師により死亡診断書(死体検案書)が作成されますが、医師が医学的に死亡したと判定した日時が相続開始日となります。

    孤独死や遭難死など、死亡した日が特定できないケースでは、「令和5年7月20日から7月31日までの間に死亡」、「令和5年7月頃死亡」などと幅のある期間で判定されることもありますが、相続開始日はもっとも遅い日(いずれも令和5年7月31日)となります。
    また、「相続開始を知った日」とは、「被相続人が死亡したことを相続人が知った日」のことです。

  2. (2)死亡したとみなされる場合|失踪宣告

    長期間にわたって行方が分からず生死不明となっている場合、家庭裁判所で失踪宣告を受けることにより、法律上死亡したとみなされます。

    失踪宣告には二通りの要件があり、相続開始日は次のようになります。

    • 行方不明となってから7年間生死不明の場合(普通失踪)→相続開始日は、生死不明となって7年経過した日
    • 戦争や海難事故、震災などの危難に遭遇し、その後1年間生死不明の場合(特別失踪)→相続開始日は、危難が去った日(海難事故や震災が発生した日)


    この場合の「相続開始を知った日」(915条1項、1048条)とは、「相続人が失踪宣告の審判が確定したことを知った日」になります。

  3. (3)死亡したと推定される場合|認定死亡

    水難事故や災害に遭い、死亡したことは確実であるものの、遺体が発見されない場合は、捜索に当たった警察や海上保安庁などの判断により死亡の報告がなされて、戸籍上死亡したと扱われることがあります。
    捜索が打ち切られてある程度の期間が経過した後、親族の申請がある場合に死亡の報告がなされるのが一般的な運用です。

    この場合、「相続開始日」とは「戸籍に記載された死亡日時」であり、「相続開始を知った日」とは「警察などの官公庁が死亡の報告をしたことを相続人が知った日」となります。

2、相続手続全体の流れ

以下では、相続が開始した場合の手続について、大まかな流れを解説します。

① 相続開始
前章で解説したとおり、被相続人の死亡などによって相続が開始します。

② 遺言書の確認
遺言書がある場合は遺言に従って遺産を分配することになるので、遺言書の有無を確認します。
法務局で保管されている遺言書や公正証書遺言以外の遺言書は、家庭裁判所で検認を受ける必要があります
なお、遺言により遺産をほとんど相続できない相続人は、遺留分侵害額請求権を行使できる場合があります。

③ 相続人・相続財産の調査
戸籍謄本を取り寄せて、法律上、誰が相続人になるのかを調査します。
また、相続の対象となる被相続人の財産や借金を調査し、その価値を算定する資料を収集します。
被相続人が相続人に対して生前に金銭などを贈与している場合、次のように相続手続に影響することがあるので、生前贈与がなされた日や金額についても調査が必要です

  • 相続税の課税対象となる相続開始前の3年分
  • 遺産分割で考慮される特別受益として相続開始前の10年分


④ 相続放棄・限定承認の申述
相続人になった場合、以下のいずれかを選択することになります。

  • 相続財産や被相続人の借金のすべてを受け継ぐ(単純承認)
  • 相続財産や借金などを一切受け継がない(相続放棄)
  • 相続財産から借金を清算して残った財産があれば受け継ぐ(限定承認)


相続放棄や限定承認をする場合は、家庭裁判所で申述の手続をとる必要があります。

⑤ 準確定申告・納税
被相続人に所得があった場合は、相続人が代わって確定申告と納税を行います。

⑥ 遺産分割協議
遺言書がなく相続人が複数人いる場合は、誰が何を相続するのか、相続人全員の合意に至るまで協議を行います。

⑦ 遺産の名義変更
被相続人名義の財産を、遺言や遺産分割協議の内容に従って相続人名義に変更します。

⑧ 相続税申告・納税
相続税が課税される場合は、相続税の申告と納税をする必要があります。

3、相続開始日はなぜ重要?|期限のある手続について

期限のある相続手続では、相続開始日や相続開始を知った日が期限の始期になります
以下では、相続手続のうち期限のあるものについて、具体的に解説します。

  1. (1)相続放棄・限定承認の申述

    相続放棄や限定承認の申述は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に行う必要があります。

    「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは以下の両方を知った時のことであり、相続人によって違う日になることもありえます

    • 相続が開始したこと
    • 法律上自分が相続人であること


    相続放棄や限定承認の期限までの3か月間は「熟慮期間」といわれますが、熟慮期間内に相続放棄や限定承認の申述をしなかった場合は、単純承認したことになるため注意してください。

    なお、熟慮期間には、以下のような例外的な取り扱いもあります

    • 例外1|熟慮期間は伸長が認められることもある
    • 相続財産の調査に時間を要する事情がある場合には、家庭裁判所に申し立てをして、熟慮期間を伸長してもらうことができます。
      伸長の申し立ては、相続人ごとに熟慮期間内に行う必要があります。

    • 例外2|熟慮期間経過後に借金などが判明した場合
    • 「相続財産や借金などの債務はない」と信じて相続放棄をしないまま熟慮期間が経過した後になってから、「実は被相続人に多額の借金があった」と判明した、という事態が起こる子もとあります。

      このような場合、被相続人に債務がないことを信じたことに相当の理由があると家庭裁判所に認められたなら、債務の存在を知った時(または知ることができた時)から熟慮期間が進行して、相続放棄の申述が受理されることもあります。

    • 例外3|先順位の相続人が全員相続放棄した場合
    • 被相続人が多額の借金を抱えていたような場合には、すべての相続人が相続放棄をすることも多くなります。

      相続人全員が相続放棄をする場合、第1順位の相続人(子)、第2順位の相続人(直系尊属)、第3順位の相続人(兄弟姉妹)が順次相続放棄の申述を行います。
      この場合には、第2順位と第3順位の相続人の熟慮期間は、先順位の相続人全員が相続放棄したことを知った時から進行します。
      なお、配偶者の熟慮期間に影響はありません
  2. (2)準確定申告・納税

    給与や事業による所得がある場合、通常は毎年1月から12月の所得について翌年3月15日までに確定申告を行います。

    しかし、所得税の納税義務者が亡くなった場合は相続人全員が納税義務者となり、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に申告と納税をしなければなりません。
    期限までに納税しなければ加算税や延滞税が課されることがあるため、注意しましょう
    源泉徴収票や保険料の控除証明書など書類の取り寄せに時間がかかることもあるので、相続財産の調査などと並行して準備を進めるようにしてください。

  3. (3)相続税の申告・納税

    相続税は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内に申告と納税を行う必要があります。
    相続税の課税対象には、相続財産のほかに「相続開始前3年間になされた贈与財産」と生命保険金や死亡退職金などの「みなし相続財産」が含まれるため、被相続人の生前贈与についても把握しておく必要があります。

    相続税の納税期限までに遺産分割が行われていない場合でも、申告と納税は行わなければなりません。

  4. (4)遺留分侵害額請求権

    遺言により特定の相続人や第三者に多額の遺贈がなされた場合、他の相続人はほとんど遺産を受け取れないことがありますが、遺留分の権利がある相続人は遺産を多く受け取った人に金銭で補償してもらうことができます
    この権利のことを「遺留分侵害額請求権」といいます。

    遺留分がある相続人の範囲は、配偶者、子、直系尊属で、法定相続分の2分の1(直系尊属のみが相続人の場合は3分の1)の割合で遺留分の権利があります。
    また、遺留分侵害額請求権には時効があり、時効期間は相続が開始したことと遺留分が侵害されていることの両方を知った時から1年とされています。
    さらに、相続開始から10年が経過すると請求権は消滅します。

    遺留分侵害額請求を行う場合、時効期間に請求権を行使する必要や、「誰にいくら請求できるのか」など複雑なポイントについて考慮する必要があるため、早めに、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします

4、相続のサポート役として弁護士が適任な理由

「相続について専門家のサポートを受けたい」という方は、弁護士に依頼しましょう。

  1. (1)期限を意識した手続の進め方をアドバイスしてもらえる

    相続手続には前章で解説したように重要な期限があり、たとえば「相続放棄申述の期限までに相続財産や債務を把握する」「相続税の納付期限までに納税資金を用意する」というように、限られた期間内に効率よく手続を進める必要があります。
    また、相続財産の調査や相続人の調査など、一般の方には不慣れな作業も正確に行う必要があります。

    弁護士であれば手続の詳しい方法やスケジュール管理についてアドバイスするなど、専門家として相続をサポートすることが可能です。

  2. (2)法律知識が必要な場面で心強い味方になる

    相続手続では、法律に従って解決しなければならない問題も起こりえます。
    たとえば、「多額の贈与を受けた相続人と公平な遺産分割をしたい」とか「遺言の内容に納得いかない」というようなケースでは、主張が平行線になりがちです。

    相続人同士の話し合いが難しい問題が発生しても、専門家である弁護士に相談すれば、法律にのっとった公平なかたちで解決することが可能です

  3. (3)交渉や裁判所の手続を委任できる

    弁護士は相続人の代理人として交渉をしたり裁判所の手続を代行したりすることができます。
    交渉が苦手な方や裁判所の手続に不安がある場合にも、弁護士に委任して相続手続を進めてもらうことが可能です。

5、まとめ

相続手続では、相続放棄や限定承認の申述、被相続人の所得税や相続税の納税、遺留分侵害額請求など、重要な手続で期限が定められています。
これらの手続の期限は「相続開始日」が基準となるため、相続開始日や相続開始を知った日がいつになるのか正確に把握しておく必要があります。

相続手続には、法律知識だけではなく、税金や不動産登記など複数の専門分野にまたがる問題もありますが、ベリーベスト法律事務所では、弁護士と税理士、司法書士がチームとなってお客さまをサポートするワンストップサービスを提供しております。
遺産相続に関するお悩みは、ベリーベスト法律事務所にまでご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています