免許偽造で問われる罪は? AIを使った場合でも逮捕される?

2024年04月08日
  • 交通事故・交通違反
  • 免許偽造
免許偽造で問われる罪は? AIを使った場合でも逮捕される?

免許証を偽造すると罪に問われることは、多くの人がご存じかと思います。

しかし昨今はAIの発展に伴い、架空の免許証をAIで作成・悪用される事例が報告されています。偽造免許証が、AIや画像作成アプリで簡単に作成できる場合、どのようなケースだと逮捕されてしまうのでしょうか。

本コラムでは、免許証を偽造し使用した場合に成立する犯罪や法定刑、デジタルデータを加工した場合にも逮捕されるのかなど、免許の偽造についてベリーベスト法律事務所 八王子オフィスの弁護士が詳しく解説します。

1、免許を偽造すると問われうる罪と刑罰

  1. (1)有印公文書偽造罪

    免許証を偽造すると「有印公文書偽造罪」に問われる可能性があります。

    有印公文書偽造罪とは、「行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した」場合に成立する犯罪です(刑法第155条第1項)。

    この公文書偽造罪は、「公文書に対する社会的な信頼」を侵害する犯罪です。

    免許証は、道路交通法に基づき各都道府県公安委員会によって発行される運転許可を証明する公文書です。
    「偽造」とは、文書の名義人と作成者との間の人格的同一性を偽ることと定義されています。
    偽物の運転免許証の画像を作成した場合には、都道府県公安委員会の作成名義を悪用して、権限のない一般人が文書を作成したことになるため、文書の名義人と作成者との間の人格的同一性が一致しないことになります。

    したがって、免許証を偽造した場合には、有印公文書偽造罪に問われる可能性があるのです。

    また公文書偽造罪が成立するためには、「行使の目的」が必要です。すなわち、偽造文書を真正な文書として他人に文書の内容を認識させ、または認識可能な状態に置く目的がなければなりません。そのため、ただ精巧なレプリカを作りたかっただけという場合には、「行使の目的」がないと判断される可能性があります。

  2. (2)偽造公文書行使罪

    偽造した免許証を「行使」すると、偽造公文書行使罪に問われることになります(刑法第158条第1項)
    偽造公文書行使罪が成立すると、有印公文書偽造罪と同一の刑罰が科されることになります。

    偽造公文書行使罪のいう「行使」とは、偽造文書を真正な文書として使用すること、虚偽文書を内容が真実である文書として使用することをいいます。
    そして文書を「使用」するとは、人に文書の内容を認識させ、または文書の内容を認識可能な状態に置くことを指します。
    本来的な用法に従って使用することまでは不要で、行使態様・方法については問題となりません。ただ「行使」というためには真正に成立した文書の外観を有している必要があり、真正に成立した文書として使用することが必要となります。

    そのうえで、行使の相手方は「偽造されたもの」であることについて認識を欠いている必要があり、行使の相手方から偽造の事実を知っている者は除かれます。
    提示した相手が偽造した免許証だとわからないと思っていたが、相手は偽造した免許証であることを見破っていた、という場合には行使罪は未遂となります。

  3. (3)詐欺罪

    偽造文書を悪用して、他人から財産やサービスの提供を受けた場合には、詐欺罪が成立する可能性があります。
    詐欺罪は、「人を欺いて財物を交付させた」場合や、同様の方法で「財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた」場合に成立する犯罪です(刑法第246条第1項第2項)。

    以下の場合は、文書偽造・行使の罪のほかに、財産犯としての詐欺罪に問われる可能性があります

    • 偽造した免許証を消費者金融の本人確認に利用してお金を借り受けた
    • 偽造した免許証を提示して携帯電話の使用契約を締結してスマートフォンを受け取った
    など
  4. (4)道路交通法違反

    偽造した免許証しか所持していないのに、自動車を運転した場合には道路交通法に違反することになります。
    法令の規定による運転の免許を受けている者でなければ運転・操縦することができない車両の当該免許を受けないで運転した者には道路交通法に基づき刑罰が科されます(道路交通法第117条の2の2第1項1号)。

2、偽造免許を使用していたら刑罰はどう変わるか

  1. (1)有印公文書偽造罪

    免許証を偽造したことで有印公文書偽造罪が成立する場合、「1年以上10年以下の懲役」に科されます(刑法第155条1項)。
    運転免許証を含む公文書には一般的に高い信用性があるため、公文書偽造罪には罰金刑がなく懲役刑のみという重い法定刑が科されています。

  2. (2)偽造公文書行使罪

    偽造した免許証を行使したことで偽造公文書行使罪が成立する場合、有印公文書偽造をした者と「同一の刑に処する」と規定されています(刑法第158条第1項)。

    したがって、公文書偽造罪と同じく「1年以上10年以下の懲役」が科されることになります。

    有印公文書偽造罪と偽造公文書行使罪の両罪が成立する場合、「犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるとき」=牽連(けんれん)犯にあたり、両罪は科刑上一罪として処断されます。
    牽連犯の場合には、「その最も重い刑により処断する」と規定されているため、「1年以上10年以下の懲役」が科されることになります。

  3. (3)詐欺罪

    偽造免許証を悪用して他人から財物を得たことで詐欺罪が成立する場合、「10年以下の懲役」が科されることになります(刑法第246条第1項)。

    偽造公文書行使罪と詐欺罪は牽連犯であると考えらえているため、公文書偽造罪と偽造公文書行使罪と詐欺罪のすべてが牽連犯となり科刑上一罪となります。牽連犯は「その最も重い刑により処断する」ことになるため、詐欺罪の「10年以下の懲役」が科されることになります。

  4. (4)道路交通法違反

    道路交通法に違反して無免許で自動車を運転した場合には、「3年以下の懲役」または「50万円以下の罰金」が科されることになります(道路交通法第117条の2の2第1項1号)。

3、デジタルデータの免許偽造でも同じ罪に問われるのか

それでは、免許証のデジタルデータに細工をした場合についても同じように偽造の罪に問われるのでしょうか。

この点、保険証の白黒コピーを改ざんしたものをファクシミリにセットして画像データを送信した事例について、公文書偽造罪・同行使罪の成立を肯定した判例が参考になります。

まず公文書の写真コピーについて、「公文書の写真コピーの性質と社会的機能に照らすときは、そのコピーは、文書本来の性質上原本と同様の社会的機能と信用性を有し得ない場合を除き、公文書偽造罪の客体たり得る」という判例の見解が示されています。

そして本件は保険証の原本を偽造したとは言えないとしつつ、「本件改ざん物は、本件保険証のコピーそのものではないけれども、一般人をして本件保険証の真正なコピーであると誤認させるに足りる程度の形式・外観を備えた文書と認めるのが相当であり、このような意味で、本件において被告人がコピーを用いて作成した本件保険証の写しについては、その文書性を肯定でき、偽造罪の成立を認めることができる」としています(東京高等裁判所平成20年7月18日判決)。

このような判例の立場によると、免許証のデジタルデータを偽造して他人に提供した場合にも偽造罪・行使罪の成立が肯定される可能性があります

4、免許偽造が発覚してから刑罰が科されるまでの流れ

  1. (1)発覚する理由

    運転免許証には12桁の免許証番号が記載されているため、偽造免許証の場合には、この番号が既存のルールに反するものである場合、この免許証番号から偽物だと発覚する可能性があります。
    また、デザインや印字などについても本物の免許証に似せてはいるものの、見比べてみると偽造されたものだとわかるケースもあります。

    そして、偽造免許証の提供を受けた者が警察に相談をした場合、警察官は簡単に偽造免許証と見破れる可能性があります。なぜなら警察官は業務として免許証を取り扱っているため、偽物であればすぐに気づくことができるからです。

  2. (2)逮捕されるケース

    偽造免許証を提示して財物やサービスの提供を受けた場合には、被害者から警察に被害申告がなされる可能性があります。
    オンラインで偽造免許証を悪用したとしても、捜査機関の捜査能力ではIPアドレスやプロバイダの契約者情報などをたどって発信者の特定にまでたどり着くことができます。

    犯人が特定された場合には、公文書偽造罪・同行使罪、詐欺罪などの嫌疑で逮捕状を請求し、自宅を訪れた警察官に通常逮捕される可能性があります。

  3. (3)刑事事件の流れ

    逮捕された場合には、刑事事件の手続きは以下のような流れで進むことになります。

    • 逮捕
    • 勾留
    • 公訴提起
    • 刑事裁判


    公文書偽造罪・同行使罪の疑いで被疑者が逃亡・罪証隠滅のおそれがある場合には「逮捕」される可能性があります。身体拘束から72時間以内にさらなる身体拘束(勾留)が必要か否かの判断がされることになります。

    「勾留」は検察官が裁判官に請求します。裁判官により勾留決定がなされた場合、「10日間」のさらなる身体拘束が可能ですが、延長の必要がある場合には追加で「10日間」の勾留延長がなされる可能性があります。

    勾留期間中に、検察官は被疑者を公訴提起(起訴)するか否かを判断します。
    起訴された場合には、裁判所が被告人の有罪・無罪の判断を行うことになります。

5、弁護士に相談すべきタイミング

免許証を偽造し、行使してしまった場合、有印公文書偽造罪と偽造公文書行使罪に問われる可能性があります。また、偽造した免許証を行使して、他人から財産やサービスの提供を受けた場合には、詐欺罪に問われる可能性があります。
したがって、心当たりのある方はできるだけ早く弁護士に相談されることをおすすめします。

弁護士に依頼することで、以下のようなサポートを受けることができます

  • 詐欺を受けた被害者との間で示談を成立させる
  • 弁護士が同行したうえで自首をする
  • 早期釈放、不起訴処分、執行猶予付き判決など依頼者の処遇が軽くなるように弁護活動をする

6、まとめ

本コラムでは、免許証を偽造して悪用した場合に問われる可能性がある刑事責任について解説してきました。
AIや画像加工アプリを使って、デジタルデータに細工をして相手方に提供した場合にも偽造罪や行使罪に問われる可能性はあります。

偽造免許証を作成・使用して刑事事件になるのではないかとお悩みの方は、一度弁護士に相談することをおすすめします

ベリーベスト法律事務所 八王子オフィスには刑事事件の経験が豊富な弁護士が在籍しています。あなたのケースで、刑事事件になる前に解決できる可能性もあるため一度お話をお聞かせください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています