社員証を紛失してしまった場合の対応は?|懲戒や解雇に対してとるべき対応
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2022年度に東京都内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は17万4985件でした。
社員証を紛失した場合、就業規則に従って懲戒処分を受けることがあります。ただし、社員証の紛失が過失による場合は、重すぎる懲戒処分は無効となる可能性が高いです。会社から不当な懲戒処分を受けた場合は、速やかに弁護士へご相談ください。
本記事では、社員証を紛失してしまった場合にやるべきことや、社員証の紛失に対する懲戒処分の可否などについて、ベリーベスト法律事務所 八王子オフィスの弁護士が解説します。
1、社員証の紛失に対して厳しい措置が行われる理由
従業員が社員証を紛失すると、会社の名前が犯罪行為などに悪用されるおそれがあります。
特に有名企業の社員証は、提示すれば一定の信頼を得られる可能性が高い反面、悪用されると企業としての信頼が大きく毀損されるおそれがあります。
また、社員証がオフィスの入館証(入館カード)や入管用ICカード(セキュリティーカード)を兼ねている場合は、紛失した社員証が悪用されると、オフィス内に部外者の立ち入りを許してしまうことになりかねません。営業秘密や個人情報等のセキュリティーの観点からも、このような事態は絶対に避ける必要があります。
企業としては、従業員に対して社員証の厳重管理および紛失防止を促さなければなりません。そのために、社員証を紛失した従業員に対して、企業は懲戒処分を含めた厳しい措置を行うことがあります。
2、社員証を紛失してしまった場合にやるべきこと
社員証を紛失してしまった場合は、速やかに以下の対応を行いましょう。
会社や自宅以外の場所で社員証を紛失したことが確実な場合には、警察に紛失届の提出をしておいた方が良いです。
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(1)社員証の紛失に関する社内ルールをチェックする
まずは就業規則その他の社内規程を参照して、社員証の紛失に関する社内ルールを確認しましょう。
社内ルールにおいては、紛失時に行うべき報告や、再発行の手続きなどが定められることが多いです。社員証を紛失した際には、基本的に社内ルールに従った対応をとることが求められます。 -
(2)人事部などへ報告する
社員証を紛失した場合は、黙っているのではなく、速やかに会社へ報告することが大切です。
報告すると何らかの処分を受ける可能性はありますが、報告せずに後から紛失が発覚した場合の方が厳しい処分が行われることが多いです。また、紛失の発覚が遅れれば遅れるほど、会社が負うリスクは大きくなります。
紛失による弊害を最小限に抑えるため、会社に対する報告は速やかに行うべきです。
社内ルールにおいて社員証紛失時の報告義務が定められている場合は、その規定に従って報告を行いましょう(紛失届の提出など)。特に社内ルールがない場合は、人事部などへ報告しましょう。 -
(3)社員証の再発行を受ける
紛失した社員証については無効化した上で、新しい社員証の再発行を受ける手続きを行いましょう。
再発行手続きについても、社内ルールに定めがあれば、その定めに従って申請等を行います。特に社内ルールがない場合は、人事部などに再発行の手続きを確認しましょう。
3、社員証の紛失に対する懲戒処分の可否
社員証を紛失した従業員に対しては、懲戒処分が行われることがあります。
ただし、懲戒処分を行う際には一定の要件を満たす必要があり、重すぎる懲戒処分は懲戒権の濫用として無効となります。社員証の紛失が過失による場合は、懲戒解雇などの重い懲戒処分は無効となる可能性が高いです。
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(1)懲戒処分の要件
会社が労働者に対して懲戒処分を行うためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。社員証の紛失を理由として懲戒処分を行う際にも、以下の要件をすべて満たさなければなりません。
- ① 就業規則上の懲戒事由に該当すること
あらかじめ就業規則において懲戒事由を定めた上で、労働者の行為が懲戒事由のいずれかに該当することが必要です。 - ② 就業規則において定められた種類の懲戒処分を行うこと
労働者に対して行うことができる懲戒処分は、あらかじめ就業規則において定められたもののみです。 - ③ 懲戒権の濫用に当たらないこと
労働者の行為の態様・性質その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は、懲戒権の濫用として無効です(労働契約法第15条)。
- ① 就業規則上の懲戒事由に該当すること
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(2)社員証の紛失が懲戒事由に該当しない場合、懲戒処分は不可
社員証の紛失は、懲戒事由として掲げていない会社も多いです。懲戒事由に該当しない場合には、社員証の紛失を理由として懲戒処分を行うことはできず、業務上の指導として注意を与えることができるにとどまります。
会社によっては、「会社の秩序を乱す行為をした場合」などの抽象的な要件に該当するとして懲戒処分が行われる可能性もあります。しかしながら、このような抽象的な要件については広い解釈の余地があります。社員証を紛失しても、直ちに職場における秩序が乱れるとは限らないので、「会社の秩序を乱す行為」に当たるかどうかについては疑問が残るところです。
懲戒事由に該当しないと思われるにかかわらず、社員証の紛失を理由に懲戒処分を受けた場合には、弁護士にご相談ください。 -
(3)重すぎる懲戒処分は、懲戒権の濫用により無効となる
懲戒処分については、懲戒権の濫用に当たるかどうかがよく問題となります。労働者の行為の性質・態様等に照らして重すぎる懲戒処分は、懲戒権の濫用として無効となる可能性が高いです。
労働者の行為の性質・態様等としては以下の事情などが考慮されます。
- 当該行為が会社に対して与える損害の程度、およびその可能性
- 故意によるものか、または過失によるものか
- 過去に同様の非違行為が行われたことがあるか
- 過去に懲戒処分を受けたことがあるか(別の種類の非違行為によるものを含む)
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(4)社員証の紛失はどの程度の懲戒処分に相当するか?
紛失した社員証が悪用されれば深刻な事態に発展するおそれがありますが、その可能性はそれほど高いとはいえないでしょう。
また、社員証を意図的に第三者へ横流しする行為は悪質ですが、うっかり社員証をなくしてしまっただけであれば、労働者の行為が悪質とまではいえません。
加えて、何度も社員証をなくしているのであればともかく、社員証をなくしてしまったのが1回だけの過失にすぎない場合、労働者の行為にただちに悪質性は認められません。
上記の各点を考慮すると、過失によって1回だけ社員証を紛失したにすぎない場合にただちに懲戒処分になる可能性は低いと考えます。社員証の紛失が複数回続く場合に懲戒処分を行うとしても、戒告・けん責などによる厳重注意にとどめるのが相当と考えられます。
減給以上の懲戒処分は、懲戒権の濫用として無効になる可能性が高いです。
これに対して、意図的に社員証を第三者へ横流しした場合、過去に何度も社員証を紛失している場合、別の理由で過去に懲戒処分を受けたことがある場合などには、減給以上の懲戒処分が認められることもあり得るので十分ご注意ください。
4、会社から不当な懲戒処分を受けたら弁護士に相談を
減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇など、重い懲戒処分を受けた労働者の不利益は著しいものです。
重い懲戒処分に相当する行為をしたなら仕方がないですが、不当に重すぎる懲戒処分を受けてしまうケースも散見されます。特に社員証の紛失については、過失によって1回なくしただけの労働者に対して重い懲戒処分が行われるなど、不適切な例がよく見られます。
会社から不当に重い懲戒処分を受けた場合は、弁護士への相談をおすすめします。
弁護士は法的根拠に基づき、懲戒処分が不適切であることを主張して、会社に対してその撤回を求めます。減給・出勤停止・降格・解雇など、労働者に具体的な不利益が生じている場合は、その補填を請求することも可能です。
懲戒処分の無効を主張したいという労働者の方は、お早めに弁護士へご相談ください。
5、まとめ
社員証の紛失は、懲戒処分の対象になることがあります。紛失した社員証が悪用されると、会社は大きな損害を受けるリスクがあるためです。
ただし、社員証の紛失が就業規則上の懲戒事由に該当しない場合には、ただちに懲戒処分を行うことができません。また、社員証の紛失という行為の性質・態様等に照らして、重すぎる懲戒処分は懲戒権の濫用として無効となります。
会社から不当に重い懲戒処分を受けた場合には、弁護士に相談して対応の方法を検討しましょう。弁護士を通じて法的根拠のある主張を行えば、会社が懲戒処分を撤回する可能性があるほか、労働審判や訴訟を通じて懲戒処分が無効と判断される可能性があります。
ベリーベスト法律事務所は、会社とのトラブルに関する労働者のご相談を随時受け付けております。社員証を紛失したことを理由に受けた懲戒処分に納得できず、その無効を主張して争いたい方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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