文書提出命令とは? 申立書提出の流れや拒否された場合の対応を紹介
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会社との間で、未払いの残業代や不当解雇などのトラブルを抱えている場合、重要な資料や書類はすべて会社が保有していて従業員の側には資料があまり手元にない、というケースは少なくありません。
会社が資料を独占していることで、従業員が正当な権利を主張できなくなるのは公正ではないでしょう。
本コラムでは、会社に文書の提出を命じる「文書提出命令」という制度の概要や、その他の証拠収集方法、会社と争う場合の手順などについて、ベリーベスト法律事務所 八王子オフィスの弁護士が解説します。
1、残業代請求や不当解雇で会社を訴える場合の手段
文書提出命令について理解する前提として、残業代請求や不当解雇で会社を訴える際の具体的な手続きの種類やその流れを解説していきます。
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(1)会社に是正を求める
従業員が会社との間でトラブルを抱えている場合、まずは会社に対して是正を求めていくことが必要です。
たとえば、残業代が未払いである場合には未払い残業代を支払うように請求し、不当解雇された場合には、会社に対して解雇処分の撤回を請求していくことになります。
会社側が違法性を自ら認めた場合には、違法状態が改善されて労働紛争が解決する可能性があります。しかし、従業員と会社との間で主張の対立がある場合には、会社と交渉して権利を勝ち取る必要があります。 -
(2)労働基準監督署に通報する
会社との任意での話し合いでは労働紛争が解決しない場合、労働基準監督署に通報するという方法があります。
労働基準監督署は、労働条件に関する相談や、会社が労働基準法などに違反している事実について行政指導を求める申告を受け付けており、労働基準法違反の事件については捜査権を持っています。
従業員からの通報をきっかけに、労働基準法などの労働関係法令に基づき、労働基準監督官が工場や事務所などの事業場に立ち入り検査を行い、従業員の労働条件の確認などを行います。その結果、法律に違反する事実があった場合、会社に対して是正勧告や是正命令が出される可能性があります。 -
(3)労働審判・訴訟などの裁判手続きを利用する
労働トラブルが解決しない場合には、労働審判や訴訟という裁判手続きを利用することになります。
「労働審判手続き」とは、解雇や給料未払いなど、個々の従業員と会社との間の労働関係トラブルを迅速に解決するために設けられている制度です。
具体的には、裁判官(労働審判官)1名と、労働審判員2名で組織される労働審判委員会が当事者の間に入って双方の言い分や事情を聞き、審理・判断を行います。
原則として3回以内の期日で審理を終えるため、迅速な解決が期待できます。
労働審判では、まずは当事者間の話し合いによる解決を試み、話し合いがまとまらなければ事案に即した労働審判が出されることになります。
このような労働審判に不服のある当事者は異議申立てを行うことができ、適法な異議申立てがなされた場合には労働審判は効力を失い、訴訟手続きに移行することになります。
民事訴訟手続きは、原告・被告双方が主張・立証を行い、最終的には判決や和解等によって紛争を解決する手続きです。
厳格な手続きのもと、主張と証拠によって権利関係を明らかにしていくことになりますので、当事者は適時・適切な方法で証拠の提出と主張を行う必要があります。 -
(4)証拠保全の申立てが必要となるケース
労働トラブルで証拠の保全が必要となるケースとは、訴訟手続きを待っていると相手が保有している証拠書類等が破棄・隠滅・改ざんされてしまうおそれがある場合です。
労働紛争の場合、タイムカードや労務管理システム、業務日報など多くの証拠は会社の手元にあるケースが多いでしょう。そして勤務先と訴訟にまで発展するようなトラブルの場合、従業員側が情報収集をすることは容易ではありません。
民事訴訟法には、「裁判所は、あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認めるときは、申立てにより、この章の規定に従い、証拠調べをすることができる」と規定しています(民事訴訟法第第234条)。
訴訟における証拠調べ手続きまでに会社が保有している証拠書類が失われてしまうおそれがある場合には、上記のような証拠保全を利用することができるのです。
2、証拠収集手続きとは
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(1)文書提出命令とは?
文書提出命令とは、民事訴訟における証拠収集手続きのひとつです。
裁判所は、当事者の申し立てがある場合、相手方に文書の提出を命じる決定を出すことができます(民事訴訟法第223条第1項)。これを文書提出命令といいます。
たとえば、訴訟を提起して残業代の支払いを請求する場合、実際に労働した時間や日数を証明できる証拠が必要となります。この場合、従業員側が証拠となる文書を持っていないが、会社側が保有しているという場合、上記の文書提出命令を申し立てることで相手に提出を求めることができます。 -
(2)文書提出命令以外の証拠収集手続き
文書提出命令以外の証拠収集手続きとして、以下のようなものがあります。
- 弁護士会照会
- 求釈明、当事者照会
- 調査嘱託
「弁護士会照会」とは、弁護士が依頼を受けた事件について、証拠や資料を収集し、事実を調査するなど、その職務活動を円滑に行うために設けられた法律上の制度(弁護士法第23条の2)です。個々の弁護士が行うものではなく、弁護士会がその必要性と相当性について審査を行った上で照会を行う仕組みになっています。
「求釈明」とは、裁判手続きにおいて裁判所を通じて相手方に事実関係を説明させるものです。また「当事者照会」とは、当事者が必要な事項について、相当な期間を定めて相手方に対して書面で回答するよう、書面で照会できるとする手続きです(民事訴訟法第163条)。
「調査嘱託」とは、裁判所が必要な調査を委託し、これで得た調査報告を証拠資料とする手続きです。
3、文書提出命令の具体的な流れと提出させられる書類とは
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(1)文書提出命令で提出させられる書類例
文書の所持者は、以下の文書の提出を拒むことができません(民事訴訟法第220条1号~3号)
- 引用文書:当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき
- 権利文書:立証責任を負う当事者が所持者に文書の引渡義務・閲覧義務を負うとき
- 利益文書、法律関係文書:立証責任を負う当事者のために作成または、文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき
労働紛争で必要となる就業規則、給与明細、勤怠管理表などは権利文書や法律関係文書に該当するため、会社側に提出義務のある文書です。
上記に該当する文書であれば、民事訴訟法に基づいて会社に開示を求めることができます。 -
(2)文書の提出を拒否することができる書類例
以下の文書については、文書の所持者は開示を拒否することができます(民事訴訟法第220条4号イ〜ホ)。
- 刑事訴追を受けて有罪判決を受けるおそれがある文書
- 公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの
- 医師や弁護士などが職務上知り得た事実で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書
- 専ら文書の所持者の利用に供するために文書(自己利用文書)
- 刑事事件にかかる訴訟に関する書類もしくは少年の保護事件の記録、またはこれらの事件において押収されている文書
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(3)文書提出命令の申立ての流れ
文書提出命令は「書面」で申し立てなければなりません(民事訴訟法第221条、民事訴訟規則140条)。
申立書には、以下の必要事項を記載する必要があります。- 文書の表示
- 文書の趣旨
- 文書の所持者
- 証明すべき事実
- 文書の提出義務の原因
当事者から申立てがあり、裁判所が理由ありと認める場合には、文書提出命令が出されることになります(同法第223条第1項)。
4、相手が文書提出命令を拒否・不服申し立てされた場合の対応
当事者である相手方が文書提出命令に応じない場合には、裁判所は当該文書の記載に関する申立人の主張を真実であると認定することができます(民事訴訟法第224条第1項)。
他方、文書の提出を命じられたのが第三者であり、その者が命令に応じない場合には、裁判所は決定で「20万円以下の過料」が科されることになります(同法第225条第1項)。
さらに、文書提出命令を受けた当事者・第三者は、その決定に対して即時抗告をすることができます(同法第223条第7項)。
ただし、提出義務の不存在ではなく文書の取り調べの必要性がないことを理由に即時抗告をすることができません。なぜなら、証拠調べの必要性の判断は裁判所の裁量であり、上訴で主張することが適切であると考えられているからです。
5、まとめ
以上、文書提出命令とは、相手方である会社に証拠文書の提出を求める裁判所の命令のことをいいます。
上記で解説したように、会社が保有している書類のすべてに提出義務が認められるわけではなく、提出義務のない文書もあるため、必ずしも裁判所が申立てを認めるとは限りません。
会社との間で未払いの残業代があったり、不当解雇されたりして紛争になりそうな場合には、労働問題の経験が豊富なベリーベスト法律事務所 八王子オフィスの弁護士に一度ご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています