出張中の時間外労働に残業代は出る? 事業場外みなし労働時間制

2024年02月19日
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出張中の時間外労働に残業代は出る? 事業場外みなし労働時間制

厚生労働省の毎月勤労統計調査(令和5年3月)によると、東京都の総実労働時間は143.0時間、所定外労働時間は12.5時間でした。

労働者としては、出張中の移動時間や時間外労働が残業代の対象となるかどうかは重要な問題でしょう。それぞれの時間が労働時間に該当するかどうかについては、「使用者の指揮命令下にある」と判断されるか否かによって変わってきます。

本コラムでは、出張中の移動時間について残業代が支給されるか否か、「事業場外みなし労働時間制」などについて、ベリーベスト法律事務所 八王子オフィスの弁護士が解説します。

1、出張中の移動時間に、残業代は支給される?

まず、出張中の移動時間は労働時間にあたるのかどうか、残業代は支給されるのかどうかについて解説します。

  1. (1)出張中の目的地まで往復した移動時間は労働時間にあたらない可能性が高い

    「労働時間」とは、使用者の指揮命令下によって労働に従事する時間を指すと定義されています。
    この定義のもと、「出張中に働いた時間」も労働時間として認識されます。
    たとえば、出張先での会議や研修など、使用者の指示による業務時間中は労働時間と判断されます。

    一方で、出張中の目的地まで往復した移動時間は、通常の勤務時間と比較すると移動時間中は個人で自由に使える場合が多く、一般的には使用者の指揮命令下によって労働に従事する時間とはいえません
    そのため、原則として残業代は支給されない可能性が高いといえます。

  2. (2)出張の目的地に着いてからの移動時間は労働時間とみなされる

    出張の目的地に到着してから、その地点での業務が開始したら、その業務が終了するまでの時間は原則として労働時間とみなされます。
    この時間帯に含まれる移動時間も、その業務を行うにあたり必要不可欠のものであれば、労働時間としてカウントされる可能性が高いです

    たとえば、出張先で複数のクライアントと面会する場合、ひとりのクライアントから次のクライアントへ移動する時間は労働時間に含まれる可能性が高いといえます。

  3. (3)使用者の指揮命令下にあれば目的地まで往復した移動時間も労働時間とみなされる

    出張中の目的地まで往復した移動時間が労働時間とみなされるかどうかについては、「使用者の指揮命令下によって労働に従事する時間」であるか否かによって判断されます。
    具体的には、以下のような状況であれば、使用者の指揮命令下であると判断されて労働時間にカウントされます

    • 移動中も業務の電話やメール対応が求められる場合
    • 出張中に上司と共に移動している場合
    • 移動中に商品などを監視しなければならない命令があった場合


    これらの状況下では、従業員は自由に時間を使えず、会社によってその時間がコントロールされることになります。
    したがって、これらの時間は労働時間と認識され、残業代が払われる対象となるのです。

    原則として、移動時間も含めて法定時間(1日8時間・1週40時間)を超える場合には、使用者は労働者に対して残業代を支給しなければなりません。
    ただし、「事業場外みなし労働時間制」をはじめとして、労働時間や残業代についての企業ごとの労働規則によって細かいルールが定められている場合もあります。

2、出張中の残業で残業代が支給されるケース

出張中の残業についても、移動時間と同様に「使用者の指揮命令下にあるか」がポイントとなります。
以下では、出張中の残業で残業代が支給されるケースを紹介します。

  1. (1)出張中の休日に労働した場合に具体的な業務指示があれば休日割増賃金の対象となる

    休日は、出張中でも原則として休日として取り扱われるため、その日は残業代の対象となり得ません。
    ただし、具体的な業務指示があるとき、つまり自由に休むことが制限される場合には、休日出勤とみなされ休日割増賃金が発生します。

  2. (2)出張手当に残業代が含まれていない場合

    出張手当に残業代が含まれていない場合、その残業時間に対する対価として残業代が支給されなければなりません。
    「出張手当」とは、出張に伴う宿泊費や交通費、食事代などを補塡(ほてん)する目的で支給されるものです。
    一方で、「残業代」は労働者が定められた労働時間を超えて働いた場合の対価です。
    出張手当と残業代は、その性質が異なる、あくまで別々のものと捉えられます
    したがって、会社から「出張中の残業代は出張手当に含まれている」と言われた場合でも、残業代として支給されていないのであれば、別途に残業代を請求することが可能です。

  3. (3)出張中の残業代を計算する方法

    出張中の残業代を計算する方法は、基本的に通常の勤務日と同様です。
    残業代の計算式は以下のとおりです。

    残業代=1時間あたりの賃金額×残業時間×残業の種類による割増賃金率


    なお、割増賃金率は、残業時間が法定労働時間を超える部分は1.25倍、深夜労働の場合も1.25倍、深夜労働で時間外であれば1.5倍以上と定められています。

    1時間あたりの賃金額や正確な残業代を自分ひとりで計算することが難しい場合には、専門家である弁護士に相談してみてください

3、事業場外みなし労働時間制が適用される場合

出張中の労働時間を判断することが難しい場合もあるため、事業場外みなし労働時間制を導入している企業もあります。
以下では、事業場外みなし労働時間制が適用されるケースについて解説します。

  1. (1)事業場外みなし労働時間制とは

    事業場外みなし労働時間制とは、出張や営業など社外で業務を行う従業員に対して適用される制度のことです
    この制度では、直接の指揮監督が難しい状況下での労働について、一定の時間を設定することで労働時間を管理します。
    たとえば、みなし時間が8時間である場合には、実際の労働時間が10時間であったとしても、8時間の労働時間とみなされます。
    なお、事業場外みなし労働時間制を導入する際には、労働基準法に基づいた合意が必要です。

    ただし、以下のような場合には事業場外みなし労働時間制を導入したとしても対象外となるため、残業代が支給されなければなりません

    • 複数人で事業場外労働をしており、グループの中に時間管理者がいる
    • 携帯電話などで具体的な業務の指示を随時受けている
    • 事業場外労働が所定労働時間内では終わらないと事前にわかっている
  2. (2)事業場外みなし労働時間制が適用されるケース

    事業場外みなし労働時間制は、出張等の指示をされ、事業場外で業務を行う労働者に適用される場合があります。
    ただし、事業場外みなし労働時間制が有効になるためには、二つの条件を満たさなければなりません。

    一つめの条件は、「労働者が労働時間の全部、または一部において事業場外で業務に携わっていること」です。具体的な業務内容や業務の割合によりますが、出張中の会議や現地での調査など、事業場外で行う業務が存在する場合に該当します。
    二つめの条件は、「労働時間の算定が困難であること」です。

    この二つの要件が満たされた場合、事業場外みなし労働時間制が適用され、法定の労働時間を超えて働いた場合でも、定められた時間内であれば残業代は発生しません。

4、残業代を請求したい場合は弁護士へ

会社に対して未払いの残業代を請求する場合には、事前に、専門家である弁護士に相談することを検討してください。
以下では、弁護士に相談することのメリットを解説します。

  1. (1)必要な証拠や書類を集めるためのアドバイスを受けられる

    出張中の残業代を請求する場合、証拠となる書類の準備が必要です。
    証拠となる書類の例としては、下記のようなものがあります。

    • 勤務表:出張期間の労働時間を証明します
    • 出張命令書:出張の事実を証明します
    • 交通費精算書:出張の移動に伴う時間や経費を証明します。


    未払い残業代の存在を証明するためには、これらの書類をしっかりと確保しておくことが大切です
    弁護士に相談すれば、必要な証拠の種類や、証拠の収集方法について具体的なアドバイスを受けられます。

  2. (2)残業代を請求するのに適したタイミングを教えてくれる

    退職した後に残業代を請求しようとしても、必要な証拠を集められなかったり、時効によって残業代を請求できなくなったりする可能性があります。
    また、出張中の残業代を請求するのに適切なタイミングは、専門知識を持たない労働者本人には判断するのが困難な場合もあるでしょう。

    退職前から弁護士に相談することで、効果的なタイミングで残業代を請求することが可能になります

  3. (3)会社との交渉を任せられる

    上司や人事部に「未払いの残業代がある」と直接に申告しても、思うように交渉できない場合があります。
    会社との交渉が難航したり、納得のいく回答を得られなかったりする場合には、弁護士のサポートを受けましょう。

    弁護士であれば、労働者の代理人として、残業代の未払いや計算間違いなどの問題を会社と直接的に交渉することができます
    専門家である弁護士が交渉することで、会社に対して労働者の権利を強固に主張しつつ、労働者本人が会社と交渉することに伴う精神的な負担を減らすことができるでしょう。

5、まとめ

出張中の移動時間は、使用者の指揮命令下によって業務が発生している時間については、残業代が発生する可能性があります。
また、事業場外みなし労働時間制が導入されている場合であっても、条件を満たさず適切な運用が行われていない場合には、残業代が発生します。

出張中の残業代請求できるかどうか知りたい方や、残業代について会社と交渉することを検討されている方は、まずはベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています