残業代請求を無視された場合は? 対処法や残業代請求の流れ
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個人で残業代請求を行っても、会社に無視されてしまうケースがあります。
もし正当な残業代請求を無視されたら、弁護士に依頼して法的手続きをとることを検討しましょう。
本記事では、会社に残業代請求を無視された場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 八王子オフィスの弁護士が解説します。
1、会社が残業代請求を無視する理由とは?
会社が残業代請求を無視する背景には、以下に挙げるようにさまざまな理由が考えられます。
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(1)残業代を支払う気がない
そもそも会社側には、未払い残業代が生じているか否かにかかわらず、残業代を支払う気が一切ないのかもしれません。
このような会社は、労働基準法違反を指摘したとしても、劣悪な労働条件を改めようとしない可能性が高いです。早めに弁護士へ相談して、法的手続きを通じた未払い残業代の回収を目指しましょう。 -
(2)他の従業員からも請求されることを恐れている
会社としては、1人の従業員(労働者)に対して未払い残業代を支払うと、それを聞いた他の従業員からも残業代請求を受けるのではないかと恐れている可能性があります。
しかし、本来支払うべき残業代を支払っていないとすれば、それは純粋に会社の責任です。労働者側としては、あくまでも自らの正当な権利として、正しい金額の残業代を支払うよう求めましょう。 -
(3)残業代が発生していないと判断している
会社において法的な検討を行った結果、未払い残業代は生じていないと判断しているのかもしれません(例:管理監督者に当たる、固定残業代の範囲内であるなど)。
この場合は、証拠と計算根拠を示して未払い残業代を請求すれば、会社が考えを改めて支払いに応じる可能性があります。弁護士のサポートを受けながら、会社に対して交渉を提案しましょう。 -
(4)残業代請求権の時効が完成している
残業代請求権は、発生から3年が経過すると時効により消滅します(労働基準法第115条、附則第143条第3項)。
消滅時効が完成している残業代については、会社は支払う義務がありません。請求額に時効が完成しているものが含まれていないかどうか、あらかじめよく確認しましょう。
2、残業代請求を会社に無視された場合の対処法
正当な残業代請求を会社に無視されたら、以下の方法によって対抗しましょう。
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(1)労働基準監督署に申告する
残業代の未払いは労働基準法違反に当たるため、従業員はその事実を労働基準監督署に対して申告できます(労働基準法第104条第1項)。
申告を受けた労働基準監督署が労働基準法違反の疑いを持った場合には、会社の事業場に対して臨検(立ち入り調査)を行います。
臨検の結果、労働基準法違反の事実が発覚すれば、会社に対して是正勧告等を行ってもらえる可能性があります。
なお、会社が従業員に対し、労働基準監督署への申告をしたことを理由として、解雇その他不利益な取り扱いをすることは違法です(同条第2項)。 -
(2)裁判所に支払督促を申し立てる
未払い残業代を請求する際に、利用できる法的手段の一つとして「支払督促」が挙げられます。
簡易裁判所に支払督促を申し立てると、裁判所から会社に対して、未払い残業代を支払うべき旨の督促を送達してもらえます。支払督促に対して2週間以内に会社が異議を申し立てなければ、「仮執行宣言付支払督促」の申し立てが可能となります。仮執行宣言付支払督促が発せられれば、会社の財産に対する強制執行を申し立てることができます。
ただし、会社が支払督促に対して異議を申し立てた場合には、自動的に訴訟へ移行する点にご留意ください。 -
(3)裁判所に労働審判を申し立てる
未払い残業代は、「労働審判」を通じて請求することも考えられます。
労働審判とは、労使紛争を迅速に解決するための法的手続きです。地方裁判所で行われます。
労働審判では、裁判官1名と労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、調停または審判によって労使紛争の解決を図ります。審理が原則として3回以内で終了するため、訴訟に比べると迅速に結論を得られる点がメリットです。
ただし、労働審判に対して異議が申し立てられた場合には、自動的に訴訟へ移行する点にご留意ください。 -
(4)裁判所に訴訟を提起する
支払督促や労働審判に対して異議が申し立てられた場合には、自動的に訴訟へ移行します。
また、支払督促や労働審判を経なくても、裁判所に訴訟を提起することは可能です。相手方の異議申し立てが予想される場合などには、直ちに訴訟を提起するのがよいでしょう。
訴訟では、従業員側が残業代請求権を証拠に基づいて立証する必要があります。そのためには、残業の証拠を確保することが非常に重要です。
残業代請求権の立証に成功すると、裁判所が会社に対して未払い残業代の支払いを命じます。勝訴判決が確定すると、会社の財産に対する強制執行を申し立てることが可能となります。
お問い合わせください。
3、残業代請求の手続きの流れ
未払い残業代請求は、以下の流れで行います。残業代請求の手続きについて分からないことがある方は、弁護士にご相談ください。
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(1)請求の準備|証拠の確保・未払い残業代の計算
残業代請求の事前準備として、残業の証拠を確保した上で、未払い残業代の金額を計算する必要があります。
残業の証拠としては、以下のような資料が利用可能です。できる限り豊富に証拠を集めましょう。
残業の証拠の例 - タイムカードや勤怠管理システムの記録
- 事務所(オフィス)の入退館記録
- 交通系ICカードの乗車記録
- タクシーの領収書
- 業務用メールの送受信記録
- 業務日誌
未払い残業代の金額は、以下の方法で計算します(月給制の場合)。
(a)時間単価を求める
時間単価=1か月の基礎賃金÷月平均所定労働時間
<基礎賃金から除外される手当>- 時間外労働手当、休日労働手当、深夜労働手当
- 家族手当(扶養人数に応じて支払うものに限る)
- 通勤手当(通勤距離等に応じて支払うものに限る)
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当(住宅に要する費用に応じて支払うものに限る)
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
<月平均所定労働時間の求め方>
月平均所定労働時間=年間所定労働時間÷12か月
(b)残業時間を集計する
※以下の種類に区別して集計- 法定内残業:所定労働時間を超え、法定労働時間を超えない部分の労働
- 時間外労働:法定労働時間を超える部分の労働
- 休日労働:法定休日に行われる労働
- 深夜労働:午後10時から午前5時までに行われる労働
(c)残業代の額を計算する
残業代=時間単価×割増率×残業時間数
※割増率については下表を参照
法定内残業 通常の賃金 時間外労働 通常の賃金×125%
※月60時間を超える時間外労働については通常の賃金×150%休日労働 通常の賃金×135% 深夜労働 通常の賃金×125% 時間外労働かつ深夜労働 通常の賃金×150%
※月60時間を超える時間外労働については通常の賃金×175%休日労働かつ深夜労働 通常の賃金×160% -
(2)会社への連絡・支払い交渉
残業代請求の準備が整ったら、会社に連絡して残業代の支払いを求めましょう。内容証明郵便で請求書を送付すると、残業代請求権の時効の完成が6か月間猶予されます(民法第150条第1項)。
会社との交渉においては、残業代の精算金額や支払方法などについて調整を行います。早期解決を図りたい場合は、会社の提案を一部受け入れて歩み寄ることも有力な選択肢です。 -
(3)法的手続き|支払督促・労働審判・訴訟
会社が残業代の支払いに応じない場合は、前述の支払督促・労働審判・訴訟などの法的手続きを通じた請求に切り替えましょう。
どの手続きを選択すべきであるかは状況によって異なるので、弁護士へのご相談をおすすめします。
4、残業代請求が無視された場合は弁護士に相談を
会社に残業代請求を無視された場合は、速やかに弁護士へご相談ください。
弁護士は、残業代の計算・会社との交渉・法的手続きなど、残業代請求に必要な対応を全面的に代行いたします。どのくらいの金額を請求できるのか、注意すべきポイントは何かなど、残業代請求について知りたいことはいつでもご質問いただけるので安心です。
5、まとめ
会社が残業代請求を無視する理由としては、さまざまなパターンが考えられます。
しかしいずれにしても、残業代の未払いは労働基準法違反に当たります。労働基準監督署への申告や弁護士への相談を通じて、未払い残業代の支払いを求めましょう。特に、残業代が発生してから時間がたっている場合は、時効が完成しないうちに請求する必要があります。
ベリーベスト法律事務所 八王子オフィスでは、未払い残業代請求に関するご相談を随時受け付けております。会社に残業代請求を無視されている方は、当事務所にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています